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Wings to fly
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「過剰な自意識」という、懐かしいメロディーを奏でる青春小説。
1960年代のヒット曲、スタンダードナンバー「煙が目にしみる」を連想させるタイトルだ。スタンダードナンバーとは、何度もカバーされてきて広い年齢層の間で有名な音楽のことだが、半世紀以上前の青春を描いたこの作品も、10代特有のおバカな思考回路とか、後で思い返すと赤面するような行動とか、「ああ、これ知ってる。」と世代は問わずに共感するような出来事が連なっている。

一面に葡萄畑が広がる小さな田舎の町の、葡萄農家の女子高生が主人公である。最終章にはマスコミ関係の仕事で有名人になった今が描かれているから、山梨県出身でコピーライターを経て小説家になった林真理子さんご自身の青春が投影されているに違いない。

「素朴で多感な少女の青春」を描いてはいるものの、感傷的な甘さが一切ない。痛いというよりも、こそばゆい感じがして、なんだか爽快である。作者の冷静な眼差しの故ではなかろうか。

共学の県立の進学校での、初恋の行方、女友達との関係、学年一のスター男子との軋轢、そして大学受験という、ごく平凡な高校生活である。主人公の少女は、容姿にとことん自信がなく、常に人にどう思われるかを気にしている。

そんな彼女が口に出すことと思っていることの乖離っぷり、思い込みの激しさ、聡明さと思いやりに欠ける同級生への軽蔑心などの描き方が、情け容赦なく赤裸々である。
そして、「ささやかな努力だけでは、とうてい好転できないものもある。」ということを、見せつけられるのもこの時代だ。少女は、それをものすごく苛立たしいと思っている。そこで悲しくなり諦める人もいるのに、この子は芯が強い。だからこそ、余計苦しむのだと思う。

この小説が奏でる主旋律は「過剰な自意識」である。誰も私のことなんかそれほど気にしちゃいなかったのに、自分が仕出かした恥ずかしいあれこれを思い出してしまった。でも、後味の悪い作品ではない。色々あったからこそ今があるんだよなあ、と遠い目になる。
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Wings to fly
Wings to fly さん本が好き!免許皆伝(書評数:862 件)

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