ぱせりさん
レビュアー:
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『ウは宇宙船のウ』に始まって『駆け回る夏の足音』までの16篇を収めた短編集である。
『ウは宇宙船のウ』に始まって『駆け回る夏の足音』までの16篇を収めた短編集である。
一作目『ウは宇宙船のウ』の主人公クリスは、宇宙船のパイロットに憧れている少年で、親友レイフとともにいつか「選ばれる」日が来るのを待ち続けている。
クリスたちの焦がれるような憧れが眩しくて、苦しくて、切なくなる。
作者による『はしがき』の「……子供のころ、夜になるとよく外に行っては星をながめ、はてな、と首をひねったものだ」
その子どもは、この短編集16編に登場する、いろいろな大人たちの中にもいて、いつでも星を探しているのではないか、と思うのだ。
彼らは、いろいろな世界の開拓者なのだ。
大人になって、星を探しに乗り出す時(憧れに向かって近づいていくとき)同時に身を引き裂かれるような激しい痛みも味わう。彼らは孤独な世界を目指しながら、残していくものたちのことを思わずにはいられない。一人ぼっちではなかったのだから。
憧れ、迷い、苦しみながら、彼らが振り返って見せる優しさが、忘れられない。
『宇宙船乗組員』では、宇宙船乗組員であるダグ少年の父親は、宇宙への憧れと地上への恋しさに苦しみ、どちらにいても安らぐことはないのだ。
『いちご色の窓』の夫は、一家揃って移住した火星の殺風景な景色のなかで、さらなる荒野への夢を思い描くが、彼の傍らにいるのは、地球の暮らしが恋しくて仕方がない妻なのだ。
また、『霜と霧』では、あまりにも過酷な惑星に不時着した人類の子孫の物語だ。彼らは、この星で生き延びるために一生を怖ろしいくらいの短さで駆け抜けるように進化しているのだが、主人公シムは、この星のどこかにある美しい宇宙船を探そうとしている。でも生きながらえてその宇宙船にたどり着くことは不可能だ。彼は命をかけて憧れるが……。
『霧笛』の美しさ、切なさはなんだろう。遥かな遠いところからやってくるもの。呼んでいるのは、この本を読んでいる私自身のような気がする。自分の記憶の奥深く、遠い遠いところへ向けて。呼び声に答えて、遥かなところで、忘れかけていた夢が目を覚ます。全力で答えようとしている……
そして、この本の最後の作品『駆け回る足音』にたどり着く。
さんざん宇宙や時間の狭間を駆け回って、大人の夢のなかにいた子どもが、ここで本来の子どもの姿を取り戻したよう、地面に足をつけたようでもある。
この子は、いま、自分の靴を履く。
地面の上を、土を蹴って駆けまわるためのテニスシューズを、作者は、少年に履かせる。
彼は、自分のお気に入りのテニスシューズを履いて、意気揚々と、この本の外へと駆け去っていく。
中学のころ、はじめて読んだブラッドベリがこれだった。いま、本当にしばらくぶりに再読して、懐かしかった。
あのころ買ってもらったスニーカー(初めての紐のついた靴)のこと、弾むような嬉しさも思い出しました。
一作目『ウは宇宙船のウ』の主人公クリスは、宇宙船のパイロットに憧れている少年で、親友レイフとともにいつか「選ばれる」日が来るのを待ち続けている。
クリスたちの焦がれるような憧れが眩しくて、苦しくて、切なくなる。
作者による『はしがき』の「……子供のころ、夜になるとよく外に行っては星をながめ、はてな、と首をひねったものだ」
その子どもは、この短編集16編に登場する、いろいろな大人たちの中にもいて、いつでも星を探しているのではないか、と思うのだ。
彼らは、いろいろな世界の開拓者なのだ。
大人になって、星を探しに乗り出す時(憧れに向かって近づいていくとき)同時に身を引き裂かれるような激しい痛みも味わう。彼らは孤独な世界を目指しながら、残していくものたちのことを思わずにはいられない。一人ぼっちではなかったのだから。
憧れ、迷い、苦しみながら、彼らが振り返って見せる優しさが、忘れられない。
『宇宙船乗組員』では、宇宙船乗組員であるダグ少年の父親は、宇宙への憧れと地上への恋しさに苦しみ、どちらにいても安らぐことはないのだ。
『いちご色の窓』の夫は、一家揃って移住した火星の殺風景な景色のなかで、さらなる荒野への夢を思い描くが、彼の傍らにいるのは、地球の暮らしが恋しくて仕方がない妻なのだ。
また、『霜と霧』では、あまりにも過酷な惑星に不時着した人類の子孫の物語だ。彼らは、この星で生き延びるために一生を怖ろしいくらいの短さで駆け抜けるように進化しているのだが、主人公シムは、この星のどこかにある美しい宇宙船を探そうとしている。でも生きながらえてその宇宙船にたどり着くことは不可能だ。彼は命をかけて憧れるが……。
『霧笛』の美しさ、切なさはなんだろう。遥かな遠いところからやってくるもの。呼んでいるのは、この本を読んでいる私自身のような気がする。自分の記憶の奥深く、遠い遠いところへ向けて。呼び声に答えて、遥かなところで、忘れかけていた夢が目を覚ます。全力で答えようとしている……
そして、この本の最後の作品『駆け回る足音』にたどり着く。
さんざん宇宙や時間の狭間を駆け回って、大人の夢のなかにいた子どもが、ここで本来の子どもの姿を取り戻したよう、地面に足をつけたようでもある。
この子は、いま、自分の靴を履く。
地面の上を、土を蹴って駆けまわるためのテニスシューズを、作者は、少年に履かせる。
彼は、自分のお気に入りのテニスシューズを履いて、意気揚々と、この本の外へと駆け去っていく。
中学のころ、はじめて読んだブラッドベリがこれだった。いま、本当にしばらくぶりに再読して、懐かしかった。
あのころ買ってもらったスニーカー(初めての紐のついた靴)のこと、弾むような嬉しさも思い出しました。
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ただたのしみのために本を読める日々でありますように。
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- 出版社:東京創元社
- ページ数:464
- ISBN:9784488612054
- 発売日:2006年02月27日
- 価格:924円
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