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すずはら なずな
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性格 特技それぞれの15人の少年。使用できるアイテムは壊れかけの帆船(解体利用可)、銃他船内の備品、装備、2ケ月分の食料。航海必需品。流れ着いたその場所で、全員無事で生き延び、故郷に還れ!
いきなりゲームかコミックか、みたいな謳い文句を掲げてしまいましたが 実際はこちらが「元祖」なのでしょうね。
もう一つ思い出したのが ウィリアム ゴールディングの「蠅の王」。凄惨な描写、少年たちの悪意、敵意、残酷さなどを高校生の頃ぞくぞくする思いで読んだ愛読書でした。(まだ大人になってから再読が果たせていないので うろ覚えではありますが)


題名は「漂流記」ですが、「漂流」というよりは孤島に漂着してからの話がほとんどです。
また原題は「二年間の休暇」。いつ無事に家に戻れるのか、戻れないのか はらはらさせる内容なのに、この題名では あら2年間なんだ、いや子供だけでの2年は結構長いぞと 先に想像してしまうので、この改題は悪くないと感じます。

当時植民地だったニュージーランドの学校の、英、仏、米国人の生徒たち(年長者でも14歳)が夏休みに2ヶ月だけ船旅を楽しむはずが、子供だけで乗り込んでいる内に 何故か綱が外れて漂流が始まり、という出だし。生徒は14人。加えて黒人のモーコーという同年代の水夫見習いの少年がいて、合わせて15人です。



いきなり最終章の話で申し訳ないのですが、ここで作者が語る、「勤勉、思慮、勇気、熱心の4つがあれば いかなる困難にも打ち勝てる」というのが物語の中を貫く骨子となります。この一文を読んで 読者が納得できるのは 物語が読者の青少年に それをこそ伝えたくて作られているからでしょう。リーダー格となる上級生の少年の行動や考え方、困難の解決方法に、それは反映されています。


本作を読んでいて、無人島で少年たちが生きるには何が必要か ひいては人間が生きるのに何が必要かということを 考えさせられます。

彼らのしたことを順を追って挙げてみると まず

1、その場所の地理、気候を確認する(孤島なのか大陸のどこか外れなのかの確認、孤島なのだとしたら、どんな植物が生え、動物がいるのか ここに自分たちが居ることをどうやって誰かに伝えるのか)。

2.安全な住まいの確保(船は壊れかけていて ずっと住めないと判断)と 暑さ寒さ(南海の孤島かと思いきや以外にとんでもなく寒い時期もあるのです)対策。


3、幼い少年たちを安心させ、役割を与え、心身ともに健やかさを保ってやること。(勉強もスポーツも遊びも、そして笑顔も)

4、食料の確保、保存。そのための狩猟、獲物を捌き調理すること(今の日本の子供にはハードル高そうです)保存食の作り方も必須。残念ながら 農耕には適さない土地のようです。



これらを円滑にするために彼等は大統領を選びます。年長でリーダー格になれるタイプは3名。

1代目大統領になったアメリカ人のゴードンに付された性格は 冷静、思慮深さ、そして植物についての有用な知識。自治を円滑にするためには 幼いメンバーに懲罰をも課します。

物語で主な主人公の役割を担う、フランス人のブリアン。学校の成績はさほどではないものの、年下に優しく敬愛の対象。勇気と行動力の人で、悪意というもの無い少年です。彼の特質は「希望」を捨てないこと。

対抗するキャラクターがイギリス人のドノバン。成績優秀でプライドが高く、盲目的に従う者(味方)が3人いますが、その他からは人気がありません。狩猟の腕は確かなので、鳥や動物、肉類の確保に貢献します。ブリアンが慕われ、2代目の大統領になって指示するのが気に食わない。


そして大事なのが黒人のモーコー。一人だけ「生徒」ではなく「水夫見習い」です。船に関する知識、調理の腕(だんだん上げていくようです)、保存食を作ることや食料の長期的な管理もでき、冷静に人を見る目もあるできた少年です。
黒人だから、ということで「選挙権が無い」と文章であっさり書かれていることや、他の少年に対して丁寧に接するところはありますが 「使用人」的な扱いをされたり、差別されている感じはありません。
差別的な物語として問題にする必要は感じませんが、こういうことを「当たり前」に思って作品を書き、何の気にも留めず読んだ、そんな時代について、考えることは良いことだと思います。
今の感覚では「差別的なこと」が描かれていたり、不当な差別があった時代の描かれたものをただ読めないようにしてしまうのではなく、ちゃんと考える心を養って読む、ということが必要だと思うのです。

ドノバンが 大統領になれない悔しさに「1代目はアメリカ人、2代目はフランス人、次は黒人のモーコーだろう」ということを言い捨てます。
モーコーの技術や人格を鑑みてそういう選出だってあり得るということを 一言 ブリアンに言い返してもらいたかったし、選挙権が無いなんておかしいことに思い至って欲しかったと思います。モーコーはとてもいいキャラクターです。


幾つもの「生き残るのに必要な」アイテムを並べてみましたが 最後に「狂暴で悪人の大人」と「善人で協力者の大人」が登場します。子供だけの物語だと思って読んでいたので、急展開に驚きました。もう一度の盛り上がりのためなんでしょうか。

更に驚いたのは悪人の扱いで、倒さなければこちらが殺されかねないとはいえ、結局少年たちと「善人の大人」が敵キャラを全て殺して 穴に放り込んでめでたし、というのはあまりな展開だと思ってしまいました。

5番目の必須アイテムは慈愛に満ちた看護のできる大人の女性と 勇敢な大人の男性。
彼らの 正しい地理知識。
(彼らも漂流してきたのですが この島の正しい位置を知っていました)

無事帰還できたのは 悪人の乗って来たボートがあったからという形での大団円。


ドノバンたちが出て行って他の洞窟に住み移り、一時彼らの団結に大きな亀裂が生じます。ですが ドノバンが危険な目に会ったところをブリアンが捨て身で助け和解、その後はドノバンが身を危険にさらしてでも仲間を守り、ブリアンの弟のジャックの重大な過失を真っ先に許します。

性善説に立った みんないい子の物語です。(「悪人」は殺されても穴に放り込まれても良いというのは青少年には「正しい感覚」なのでしょうかね?)

その他のメンバーにも、ロビンソン小説マニアの子や投げ縄で獲物を捕らえることが出来た子、工作が得意な子、音楽が得意な子など、なかなか面白い性格が付されています。

海に流したボトルとか 足にメッセージを結んだ鳥だとか そういうものが彼らの居場所を誰かに教えて 助けが来るとか、そういう牧歌的な展開を想像していたので ラストのバトルは予想外でしたが 楽しく読了しました。

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すずはら なずな
すずはら なずな さん本が好き!1級(書評数:440 件)

電車通勤になって 少しずつでも一日のうちに本を読む時間ができました。これからも マイペースで感想を書いていこうと思います。

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