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ぽんきち
レビュアー:
不思議の国をさまよう永遠の少女。矢川澄子訳、金子國義絵で。
『不思議の国のアリス(Alice's Adventures in Wonderland)』は、元々は、作者ルイス・キャロル(本名チャールズ・ドジソン)が、仲良しの3姉妹、とりわけ次女のアリス・リデルのために書いた物語です。1865年に刊行されて以来、この不思議で愛すべき本は多くの言語に翻訳され、多くの人に親しまれてきました。日本語訳だけでも、翻案や抄訳も含めると、続編の『鏡の国のアリス』と併せて、150ものバージョンが存在するようです。
挿絵ももっとも有名なものは原著初版時のテニエル(図1)のもの、それからアーサー・ラッカム(図2)のものがあげられるでしょうが、この不思議な物語は絵心を刺激するのでしょう。やはり数多くの画家が挿絵を描いています。
個人的には子どもの時読んだ福音館の版がなじみ深いです。こちらは生野幸吉訳、テニエルの挿絵でした。

川辺の土手で、姉さんの隣に座って退屈していたアリス。その彼女の前を、1匹の白ウサギが通り過ぎます。ところがこのウサギ、チョッキを着てポケットから時計を取り出し、「たいへんだ、遅刻しそうだ!」と言いながら、巣穴に飛び込んでいくのですね。驚いたアリスもすぐさま続いて飛び込みます。
これが冒険の始まり。
「ワタシヲオノミ」と書いてある薬を飲んだりキノコを食べたりして、大きくなったり小さくなったり。涙の海で溺れかけたり。水ぎせるを吸うイモムシと問答したり。ウサギとネズミと帽子屋のおかしなお茶会に同席したり。ウミガメモドキの哀しい歌を聞いたり。にんまり笑うチェシャネコに会ったり。
最後には横暴な女王さまと対決しますよ。
さあどうなるのでしょうか。

文庫本も各社から出ていますが、この新潮社版は、矢川澄子さんの訳、金子國義さんの挿絵です。
詩人でもある矢川さんは、地の文も話し言葉で綴ります。「~してね、~でね」と進む物語は、キャロルが少女たちに語って聞かせているようでもあり、矢川さんの語りのようにも思えます。
金子さんの描くアリスはどこかコケティッシュで、洗練された雰囲気です。
こうして読み進めていくと、本当に夢の中に迷い込んだように感じます。

矢川さんは解説で
『不思議の国』でも、『鏡の国』でも、アリスはみごとにひとりぼっちです。
とすればアリスは、(中略)すべてを自分できめて、不測の事態に素手で立向かってゆかなくてはなりません。
といいます。
そこに矢川さんは「少女の孤独」を見ます。
この観点は自分にはあまりなかったのでちょっと意表を突かれたのですが、なるほど言われればそうかもしれません。不思議で楽しい、でもどこか物悲しい。
その奥には、どこか誰しもが持つ「痛み」が潜んでいるのかもしれません。

永遠の少女、アリスは、今日も不思議の国をさまよっています。
    • テニエルによるお茶会の絵
    • ラッカム画。トランプとアリス
    • 今年の夏はこちらのプレミアムカバーつき。
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ぽんきち
ぽんきち さん本が好き!免許皆伝(書評数:1827 件)

分子生物学・生化学周辺の実務翻訳をしています。

本の大海を漂流中。
日々是好日。どんな本との出会いも素敵だ。

あちらこちらとつまみ食いの読書ですが、点が線に、線が面になっていくといいなと思っています。

「実感」を求めて読書しているように思います。

赤柴♀(もも)は3代目。
この夏、有精卵からヒヨコ4羽を孵化させました。そろそろ大雛かな。♂x2、♀x2。ニワトリは割と人に懐くものらしいですが、今のところ、懐く気配はありませんw

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この書評へのコメント

  1. ぽんきち2020-07-08 21:53

    夏だ! 「新潮文庫の100冊2020」にチャレンジ! https://www.honzuki.jp/bookclub/theme/no388/index.html?latest=20 参加レビューです。

    夏のフェアの定番、「新潮文庫の100冊」。今年のリスト、ぜひチェックしてみてください☆

  2. No Image

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