ゆうちゃんさん
レビュアー:
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バルザックの人間喜劇を構成する短編4つ。どれも40頁程度の短い話だが、人間喜劇の通り人間の業の様なものが結末に滲み出ている。その中でも「マダム・フィルミアーニ」と「ことづて」は温かい結末である
バルザックの人間喜劇は90ほどの作品があるそうだが、半分は中・短編だそうだ。これまで名作とされる長編を幾つか読んできたが、今回、短編4つを収めた本書を手にしてみた。短編の他に文庫本としては珍しい、評論「書籍業の現状について」も収録されている。
表題作「グランド・ブルテーシュ奇譚」の他、「ことづて」、「ファチーノ・カーネ」、「マダム・フィルミアーニ」の三編が載っている。「ファチーノ・カーネ」以外は結婚に絡む話。「グランド・ブルテーシュ奇譚」は、医師ビアンションが語り手。この名前にピンと来た人は、相当なバルザック・ファンである(「ゴリオ爺さん」では医学生として登場し、「従弟ポンス」ではポピノ伯爵の係り付け医として名前が出て来る)。彼がヴァンドームの町を歩いていると荒れ果てた館が見え、その館(グランド・ブルテーシュ館)の言われを色々と探る話である。メレ伯爵の持ち物だったが、夫の死後伯爵夫人はその館に引きこもり誰にも会わなかった。館の管理を任された公証人ルニョー、ビアンションの泊る宿屋の女将、館の元女中ロザリーから話を聞くと悲劇が浮かび上がる。「ことづて」は、「私」が馬車の階上席でイギリス人と恋の話で意気投合した直後、そのイギリス人が馬車の横転で致命傷を負い、最期の願いとして「私」に愛する女性への届け物を頼む話である。「ファチーノ・カーネ」はイタリアのミラノ公国で活躍した傭兵隊長と同名の子孫の話。内容は「モンテ・クリスト伯」の最初の方に似る。「マダム・フィルミアーニ」は、社交界で評判の美女と言われるフィルミアーニ夫人の人間像を多くの視点から語る話である。
どれも40頁程度で、訳がこなれているためかとても読み易い。自分が読んだ感じでは表題作「グランド・ブルテーシュ奇譚」より「マダム・フィルミアーニ」の方が印象に残る。人間喜劇としては異例で、冒頭でフィルミアーニ夫人の評判が、インタビュー風にあれこれ掲げられる。しかし続く本編は彼女のために全財産を使い果たした甥オクターヴの素行調査のためパリに赴く田舎貴族の伯父の調査とその結果である。「従妹ベット」などとは全く異なる暖かい気持ちになる結末だった。「ことづて」の内容自身は、バルザックにしては平凡。しかし、ことづてを果たした私への報酬の渡し方がなかなかしゃれていると思った。「ファチーノ・カーネ」の中でタイトル・ロールの老人が語る話は荒唐無稽。あり得ない話だ、と思ったが、そう思わせるのがバルザックの術中にはまったことになるのかも知れない。
評論の「書籍業の現状について」はなかなか読ませる論文だった。フランスでは1815年を境に、書籍業が印刷・製本、取次・配送、書店と三階層になった。そのため、途中でマージンを取る段階が増えて本の価格が上がり、おまけに支払手形の期限が2年と長いため、上流の業者が仕事を現金にできるのに異常に時間がかかると言う現状を憂いている。バルザックは印刷・製本業者が直接消費者に売るべきだと言っているが、書籍業の取次・配送の問題は、今の日本でも取り沙汰されており、とても興味深い内容である。
表題作「グランド・ブルテーシュ奇譚」の他、「ことづて」、「ファチーノ・カーネ」、「マダム・フィルミアーニ」の三編が載っている。「ファチーノ・カーネ」以外は結婚に絡む話。「グランド・ブルテーシュ奇譚」は、医師ビアンションが語り手。この名前にピンと来た人は、相当なバルザック・ファンである(「ゴリオ爺さん」では医学生として登場し、「従弟ポンス」ではポピノ伯爵の係り付け医として名前が出て来る)。彼がヴァンドームの町を歩いていると荒れ果てた館が見え、その館(グランド・ブルテーシュ館)の言われを色々と探る話である。メレ伯爵の持ち物だったが、夫の死後伯爵夫人はその館に引きこもり誰にも会わなかった。館の管理を任された公証人ルニョー、ビアンションの泊る宿屋の女将、館の元女中ロザリーから話を聞くと悲劇が浮かび上がる。「ことづて」は、「私」が馬車の階上席でイギリス人と恋の話で意気投合した直後、そのイギリス人が馬車の横転で致命傷を負い、最期の願いとして「私」に愛する女性への届け物を頼む話である。「ファチーノ・カーネ」はイタリアのミラノ公国で活躍した傭兵隊長と同名の子孫の話。内容は「モンテ・クリスト伯」の最初の方に似る。「マダム・フィルミアーニ」は、社交界で評判の美女と言われるフィルミアーニ夫人の人間像を多くの視点から語る話である。
どれも40頁程度で、訳がこなれているためかとても読み易い。自分が読んだ感じでは表題作「グランド・ブルテーシュ奇譚」より「マダム・フィルミアーニ」の方が印象に残る。人間喜劇としては異例で、冒頭でフィルミアーニ夫人の評判が、インタビュー風にあれこれ掲げられる。しかし続く本編は彼女のために全財産を使い果たした甥オクターヴの素行調査のためパリに赴く田舎貴族の伯父の調査とその結果である。「従妹ベット」などとは全く異なる暖かい気持ちになる結末だった。「ことづて」の内容自身は、バルザックにしては平凡。しかし、ことづてを果たした私への報酬の渡し方がなかなかしゃれていると思った。「ファチーノ・カーネ」の中でタイトル・ロールの老人が語る話は荒唐無稽。あり得ない話だ、と思ったが、そう思わせるのがバルザックの術中にはまったことになるのかも知れない。
評論の「書籍業の現状について」はなかなか読ませる論文だった。フランスでは1815年を境に、書籍業が印刷・製本、取次・配送、書店と三階層になった。そのため、途中でマージンを取る段階が増えて本の価格が上がり、おまけに支払手形の期限が2年と長いため、上流の業者が仕事を現金にできるのに異常に時間がかかると言う現状を憂いている。バルザックは印刷・製本業者が直接消費者に売るべきだと言っているが、書籍業の取次・配送の問題は、今の日本でも取り沙汰されており、とても興味深い内容である。
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神奈川県に住むサラリーマン(技術者)でしたが24年2月に会社を退職して今は無職です。
読書歴は大学の頃に遡ります。粗筋や感想をメモするようになりましたのはここ10年程ですので、若い頃に読んだ作品を再読した投稿が多いです。元々海外純文学と推理小説、そして海外の歴史小説が自分の好きな分野でした。しかし、最近は、文明論、科学ノンフィクション、音楽などにも興味が広がってきました。投稿するからには評価出来ない作品もきっちりと読もうと心掛けています。どうかよろしくお願い致します。
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- 出版社:光文社
- ページ数:256
- ISBN:9784334751869
- 発売日:2009年09月08日
- 価格:620円
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