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rodolfo1さん
rodolfo1
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決してぶれない娘、成瀬は京大生となり、京都を舞台に京都を極めるという壮大かつ曖昧な目標を掲げ、周囲の人々を巻き込んで快進撃を続ける。シリーズ最終作。
宮島未奈作「成瀬は都を駆け抜ける」を読みました。決してぶれない娘、成瀬シリーズ最終作であるとか。ちょっともったいないですね。卒業までの話をもう1~2本書けばよろしいのに。京大生となった主人公成瀬は京都を舞台に京都を極めるという壮大かつ曖昧な目標を掲げ、いつものように様々な人々と関わって行く様を描きます。

【やすらぎハムエッグ】京都大学理学部に進学した坪井さくらの視点から物語が始まります。さくらは、唯一自分を否定しなかった同級生・早田と同じ大学に行くため京大を受験しましたが、早田は途中で東大に志望変更し合格してしまい、さくらだけが京都に取り残されます。孤独と失意の中、入学式から逃げ出したさくらに声をかけたのが、桜柄の振袖姿の成瀬あかりでした。成瀬はさくらを気遣い、ほうじ茶を奢り、淡々と入学式へ向かいます。翌日、びわ湖大津観光大使のたすきをかけた成瀬と再会したさくらは、その異様な存在感と経歴に圧倒されます。

成瀬は常に無表情で、揺らがず、自分の価値観を疑いません。その姿に触れたさくらは、周囲の目を気にして主体性無く生きてきた自分との差に涙を流します。失恋を打ち明けたさくらに、成瀬は「他のことに打ち込めばいい」と料理を勧め、さくらはハムエッグ丼を作るようになります。ある時スマホから早田の写真が消えたことに動揺したさくらでしたが、成瀬は自分も島崎と離れ離れになった時は辛かったと語り、さくらは成瀬に親近感を持ちました。

成瀬はそれが早田の役目だった、縁があればまた会えると言い、夜の鴨川散歩にさくらを誘いました。実はその日は成瀬の誕生日で。。。さくらは成瀬と京都巡りをする事になりました。。。

【実家が北白川】京大に入学した女子大生梅谷誠は、キャンパスで達磨研究会と名乗る森見登美彦ファンの男たちと出会い、活動に参加します。達磨研究会は会長木崎、料理自慢の大曾根、いつも飄々とした橿原から成っており、達磨研究とは名ばかりで普段は鍋とゲームに興じる場でしたが、会長木崎の「黒髪の乙女と出会いたい」という純情な願いに誠は付き合います。その過程で、成瀬とさくらに遭遇し、成瀬を「乙女」と信じて研究会に招待します。

成瀬は「京都を極める」と宣言し、その言葉に木崎や誠は感化されます。成瀬は、自分は百の大きい事を言って一つ叶えばいい、到達点より道の方が大事だと言い、成瀬の言葉は、目的喪失気味だった若者たちに強い印象を残します。成瀬の存在は、周囲にとって時に怖ろしく、しかし同時に指針ともなるのでした。


【ぼきののか】日商簿記一級合格を目指す自分を配信するYoutuberぼきののかは、炎上狙いで成瀬に絡んだののかでしたが、成瀬の動じなさに拍子抜けし、やがて一緒に配信を行うことになります。成瀬は視聴者対応にも積極的で、配信は盛り上がりますが、過去の試験不合格を暴かれ、ののかは炎上してしまいます。

成瀬は炎上を心配し、YouTuber仲間の城山に相談します。城山の助言で謝罪動画を出し、成瀬は「この夏を簿記に捧げる」と宣言し、勉強会が発足します。さくら、誠、城山、達磨研究会の面々も加わり、勉強と配信の日々が続きます。ののかは、嘘をついていた自分と向き合い、応援してくれた小学生のわかばの言葉に涙します。結果、全員が試験に合格し、ののかは次の進路を自分で考える決意をして配信を終えます。


【そういう子なので】成瀬がテレビ番組「ぐるりんワイド」に出演することになり、美貴子も取材を受けることになります。亡き母が番組を愛していた記憶や、幼い成瀬がテレビに映り込んで祖母を喜ばせていた思い出が重なります。成瀬の小学校時代、担任に協調性がないと指摘された際、美貴子が「そういう子なので」と言い切った場面が回想され、成瀬を丸ごと受け入れる親の姿勢が浮かび上がります。放送を通じて、成瀬自身もその言葉を覚えていたことが明かされ、親子の静かな絆が描かれます。

【親愛なるあなたへ】高校の競技かるた大会で成瀬と知り合った航一郎の恋心が描かれます。書いたラブレターを出せずに悩む航一郎は、成瀬と再会し、京都を一日共に巡ります。成瀬の多忙な日常、けん玉、献血、麻雀と続く行動力に圧倒されながらも、航一郎は成瀬の言葉に救われます。事情を察したぼきののかは航一郎に、あなたが好きだ、とありがとうという手話を教え、最終的にあのラブレターを成瀬に読ませ、手話であなたが好きだと伝え、成瀬は手話でありがとうと返す場面は、成瀬らしい距離感と優しさを象徴していた良い終わり方でした。

【琵琶湖の水は絶えずして】成瀬は突然盲腸で入院し、びわ湖大津観光大使のイベントのピンチヒッターに東京から島崎を呼び寄せました。イベント内容は、蹴上にある琵琶湖疏水記念館で大津観光をアピールし、びわ湖疏水船に乗って大津港へ戻るというものでした。しかし成瀬は、自分が入院した事は誰にも内緒なのだと言い、これが成瀬の最後の観光大使仕事なのだと聞いた島崎はピンチヒッターを引き受けました。

島崎は、昨年末に結成した成瀬捜索班グループラインに、膳所に戻ったとメッセージを投げ、成瀬の弟子みらいちゃん達が返信しました。みらいちゃんと元クレーマーで実は成瀬ファンの呉間言美夫婦と島崎は食事をする事になり、成瀬の噂で盛り上がりました。3人は明日成瀬を迎えに大津港に行くと言い。。。

琵琶湖疏水を巡るイベントの中で、琵琶湖疏水は京都のものだとクレーマーに絡まれた島崎の元に成瀬は最後に姿を現し、「琵琶湖の水はみんなのものだ」と語ります。ゴールの大津港ではさくら、篠崎、みらいちゃんと呉間夫婦、ぼきののかと航一郎、成瀬の両親、達磨研究会までが成瀬を出迎え、城山が一同を撮影していました。成瀬はこれが最後だと言って、京都ガイドブックの琵琶湖疏水のページに付箋を貼り、成瀬の京都極めは達成されたのでした。島崎は成瀬に、わたしも成瀬と一緒に200歳まで生きると誓い、成瀬は。。。

本作は、成瀬あかりという揺るぎない存在を軸に、周囲の人々が損なわれかけた自分の人生を取り戻していく連作短編です。成瀬自身は、無表情な顔の下ではいろいろ葛藤しているものの、他の人々に対しては決してぶれませんが、その不動性こそが、他者に変化をもたらします。京都という都市の重層的な時間と空間の中で、成瀬は「到達」より「道」を大切にし、人生を軽やかに肯定します。シリーズ最終作とされるのが惜しまれるほど、成瀬の歩みはまだ続いていくように感じられる一冊だったと思いました。
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rodolfo1
rodolfo1 さん本が好き!1級(書評数:910 件)

こんにちは。ブクレコ難民です。今後はこちらでよろしくお願いいたします。

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