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rodolfo1さん
rodolfo1
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思想も愛も性も、すべてが消費される時代。少女達は救われるために生きているのではなく、ただ壊れないように立っている事しか出来なかった。むき出しの背骨だけが白く残った後には。。。
市川沙央作「女の子の背骨」を読みました。

【オフィーリア23号】那緒は電車の中で自分のiPhoneからAirdropに、ジョン・エヴァレット・ミレイのオフォーリアの絵を流し、それに「女は存在しない・・・?」
というメッセージを付け、読んだ人々を不審に陥らせました。その台詞は実は那緒が信奉するミソジニストオットー・ヴァイニンガーのもので、彼の著作「性と性格」によれば、女性には存在も本質もない。女は存在しない。非在なのだと言うものでした。那緒の野望はヴァイニンガーの著作を現代に蘇らせてミソジニストの経典とする事でした。実はヴァイニンガーは那緒の誕生日と同じ日に今の那緒と同じ年齢で拳銃自殺したのでした。

実は那緒はヴァイニンガーをテーマとしたウェブサイトを構築しており、映像を友人でドイツ人ハーフのハンサムゲイ美葉に依頼していました。2人は伸びないアクセス数と女性フォロワーの多さに悩んでいました。那緒はもっと悪意を盛るべきだと言いました。昨今炎上している女性を扱った広告写真に対する言及を主要なSNSにポストし、それに沿わせてヴァイニンガーの、女性にはこの世で絶対的かつ究極の価値を持つ魂が与えられていないという主張を流そうと那緒は言い、美葉は、ウェブサイトの生成AIに性と性格を学習させると請け合いました。実は那緒の修論のテーマは「性と性格」が三島に与えた影響についてというものでした。

他方、那緒の恋人和人は劇団主宰者で、三島の憂国を自分と那緒主演で映画化し、首から上は映さない本番行為を添えてPornhubに挙げて収益化しようと言って寄越し、那緒が引き受けたので和人は逆に驚きました。折柄天気は悪くなり、那緒は持病の片頭痛の出現に怯えていました。

那緒は子供の頃、ミレイの描いたオフィーリアのジグソーパズルを買ってもらい、完成させた直後はその美しさに魅了されましたが、完成後オフィーリアは死に始めたのでした。しかし腐臭を放つそれを捨てる事もならず、母親はいつも気味が悪いと言って嫌っていました。実は母親は元看護婦で、20歳以上年上の院長に見初められて結婚し、以後は専業主婦でした。実は父親はDV男で、いつも母親を殴っていましたが、兄と那緒にはDV発言はしていたものの、一切手は挙げませんでした。兄が医学部に入ってからは父は母親に手を挙げなくなり、兄だけをひたすら可愛がりました。

和人との仲は、彼の劇団のハムレットを見て以来でした。和人は那緒を一目見てオフィーリアだ!と叫んで主演女優の彼女と手を切りました。那緒は軽薄男フェチで、和人は好みにぴったりでした。更に奈緒は和人に尋ねました。憂国の麗子を自分に演じさせないとダメな理由は何かと。和人は恋人だからと自信満々に答え、その軽薄さに溺れた那緒は出演を承諾したのでした。

仕事から戻った兄が那緒の部屋を覗いてオフィーリアのパズルに目を留めました。不穏なものを感じた那緒はパズルを壁から外してクローゼットにしまいました。腐臭が漂ったのでした。兄もまた父親からDV発言を那緒に行う事を学んでいました。

実は那緒は自分のミソジニーを隠してLGBTQ+の公開講座に参加し、その講座の古株スタッフ入江縫弥乃と密かに同性愛のカップルになっていました。縫弥乃は那緒とセックスしたがっており、しばらく既読スルーを続けていた那緒を強引に呼び出してセックスしました。実は那緒は和人とのセックスとは段違いの性感を得られたのでした。縫弥乃は股関節に持病があり、いつもステッキを使っていました。

縫弥乃にだけ那緒は、兄が高校受験でストレスを貯めていた頃、深夜那緒の部屋を訪れて黙って那緒を見下ろしていた事を打ち明けました。その時も去り際に兄はオフィーリアのパズルに目をやり、パズルを見ていなければきっと兄は自分を襲っただろうと那緒は思ったのでした。。。その事を思う度に那緒は頭痛を患い。。。

昔那緒は、指導教官とのヴァイニンガーをテーマにした卒研の面談の際に、本を壁に投げつけて壁に傷をつけた事を謝りました。教官は何の本を投げつけたのかと尋ね、那緒は天人五衰だと言いました。それは三島の豊饒の海シリーズの最終巻で、三島の自決直前に書かれた毀誉褒貶する本でした。それを聞いていた友達が、あれは投げると思わず言い。。。教官は、ヴァイニンガー研究の論点に三島を入れろと指導し、那緒は卒論には取り入れませんでしたが、大学院の修論で取り上げると言いました。和人の映画でコスプレ自殺をすれば、2人の自殺者の心理が掴めると思ったのでした。

和人と那緒の映画には、劇団の俳優兼衣装係である野呂拓也と拓也の演劇学科での同期生で劇団の裏方のまとめ役を担っている吉野康治が参加する予定でした。しかし吉野は劇団の評判に傷がつくと言って映画のPornhub公開には反対でした。彼らと別れて那緒は美葉の彼氏が来ていると知って、美葉がバイトしているバーを訪れました。美葉の彼氏はインド人のAI技術者ルドラでした。ルドラは那緒が美葉に送った今回の映画の画像をAIで動画に出来ると言い、すぐに作って那緒に見せてくれました。その動画は、中尉と麗子が共に男性に置き換わっていて那緒は驚きました。

和人と那緒一行は野呂の実家が持つ大磯の別荘に撮影に赴きました。道中吉野と野呂は三島の自決の話で盛り上がりました。しかし別荘に着くと再び吉野は和人と激論になり、結局吉野は1人でバスで帰ってしまいました。翌日から3人は撮影を始めました。撮影は、2.26事件蜂起に誘われなかった新婚の中尉が、反乱軍討伐を命じられ、悩んだ挙句割腹自殺をし、自殺する前に新婚の麗子とセックスするという場面に及びました。和人とセックスしながら那緒は激しい片頭痛発作と共に、自分が兄に犯されていると言う倒錯した妄想を抱き、激しく嘔吐したのでした。。。その後那緒は兄にある頼みごとをしました。それは。。。

那緒はパズルを壊してゴミ箱に捨てた日から大学院を休学していました。思想、性、芸術、暴力、家族史。それらが絡まり合い、那緒は次第に「自分が何者なのか」さえ見失っていきます。オフィーリアは溺死体ではなく、彼女自身の精神の比喩だったのだと気づく頃には、現実と妄想の境界は曖昧になっています。

【女の子の背骨】ガゼルは滞在していたグアム島のコンドミニアムの警備員の銃を奪って何かを撃ち殺したいと常々思っていました。実はガゼルと姉は生まれつき筋肉の病気を患っていましたが、姉の病状は重く、人工呼吸器付きで今も病院で寝たきり状態でした。最近自力で物を食べる為の手術を受け、声帯を失って声を無くしたのでした。警備員を観察していた双眼鏡を伯父が見て、それに書かれたロゴの覇悪怒組とは何かとガゼルに尋ね、魔天郎を見張るのだとガゼルが答えると、摩天楼か、それは良いと伯父は誤解しました。実は魔天郎は、少年探偵団覇悪怒組と対立する悪の権化だったのでした。。。

ガゼルは今回の7日間の旅行中に毎日姉に渡す手紙を書いて預けて来ました。5歳の頃から重い病気の姉の妹をやっていて、こういう事をすれば万人受けして将来良い内申点を貰えて有名女子大に入学出来る事は知っていたのでした。

伯父と父親は実弾射撃場に行こうと言いました。父親は、観光客向けの射撃場は弱装弾ばかりだと言い、伯父は一軒ファクトリーアンモで撃てる店があると言いました。ある日コンドに戻ると、父親の親友カブが居眠りしていたのでした。裕福だったカブはガゼル家と友達付き合いをしていましたが、日本での仕事に失敗し、職を求めてグアム大学を訪れましたが、面接は2日後だと言われて尋ねて来たのだと言いました。カブが文無しだと知っていた父親はカブを部屋に泊めてやったのでした。

ガゼルの論理では、世界に酷い事をする悪者を崖の上に追い詰めておいて、もたもたととどめを刺さない物語は嫌いでした。だからガゼルには拳銃が必要だったのでした。ある時ショッピングモールに行ったガゼルは、ペンの試し書きをするノートに書いてあった魔天郎の絵を見つけて驚きました。そこには更にグアムのどこかの住所とアンモは一箱持っていくというメッセージが残されており、ガゼルは興奮しました。皆がテニスに興じる中、一人抜け出したガゼルはガードマンに拳銃を見せてと頼みました。しかしそこへカブさんが現れてガゼルを連れ戻しました。

カブさんはガゼルと部屋に帰り、いつも持っている頭陀袋をテーブルに置きました。すると何か重い金属が置かれた音がしました。カブさんはあの親にしてこの娘ありだなと言い、金で人を救おうとするな、金と善意で救われた奴は恵んでくれた相手を必ず憎むようになると言ったのでした。実はガゼルの父親はカブさんにブラジル行きを薦めていたのでした。

カブさんは銃はパパに買ってもらえ、もっと父親と話してやれと言いましたが、ガゼルはいやだと言い、カブさんはあいつも報われない奴だと笑って言ったのでした。帰国の日が来ました。ガゼルは、姉は、ガゼルが生まれるまでの7年間、このうちで一人で娘をやっていたのは凄いと驚き。。。

オフィーリア23号もこの章も、少女達は「善良であること」を強いられ、家族のために振る舞う役割を演じ続けています。オフィーリアは、男性中心の権力闘争や狂気に翻弄される、純潔で従順な女性の悲劇的な犠牲者を体現しており、那緒もガゼルも父親達からの暴力に打ちひしがれていました。那緒はそれを解消する為にミソジニストを装いますが、ガゼルの内側には暴力衝動が渦巻いています。銃への執着、悪を撃ち抜きたいという願望。それはヒーロー願望というより、世界の不条理を一発で終わらせたいという焦燥でした。

那緒とガゼルの物語に共通しているのは、「女性とは何か」という問いを、決してきれいに回収しない態度です。癒やしも成長もありません。ただ、歪んだ骨格だけが残る。だからこそタイトルは「背骨」なのだと思います。人格や理想ではなく、最後まで残る硬質な骨だけが描かれているのです。読み心地は決して良くありません。しかし、現代の空気をここまで冷徹に写し取った小説も珍しい。思想も性も暴力も、すべてがコンテンツ化された世界で、私たちはいったい何者として立っているのか。本書はその不快な問いを突きつけてくるのでした。。。
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rodolfo1
rodolfo1 さん本が好き!1級(書評数:910 件)

こんにちは。ブクレコ難民です。今後はこちらでよろしくお願いいたします。

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