efさん
レビュアー:
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どこかノスタルジックだけれど、不安や違和感を醸しだす芸術
まず最初に注記したいのは、タイトルにもなっている『魔術的リアリズム』という用語についてです。
マジック・リアリズムというと、ガルシア・マルケスなどの作品を思い浮かべるのではないかと思うのですが、この本で取り上げている『魔術的リアリズム』はそれではありません。
1920年代のドイツを中心として発生した美術ムーブメントのことなんですが、これが名前が定着する前に消えてしまった、ほんの短い期間の運動だったのです。
それは、当時大きな動きとなっていたドイツ表現主義と対立するような運動でもあったということなのですが、『新即物主義』(ノイエ・ザハリヒカイト:die neue Sachlichkeit)と呼ばれ、また、『魔術的リアリズム』(die magische Realismus)と呼ばれることもあった動きでした。
あまりにも短い期間で消えてしまった運動だったこともあり、固有の名前を付さず、『表現主義以降』と呼ばれることもあるようです。
とは言え、マニエリスムについての著作をものした種村氏ですから、このノイエ・ザハリヒカイトも、マニエリスムと同様に、1920年代ドイツにだけ固有にみられるものではなく、時を超え、場所を移して再生されたことがあるのだとも主張します。
いずれにしても、なかなか私たちの目に触れることが無い、相当にマイナーなムーブメントであることは間違いないと思われます。
本書では、このノイエ・ザハリヒカイトに属する作家、作品を様々に紹介してくれる貴重なものなのですが、その作品を見ていると非常にインパクトのある、それでいてどこかノスタルジックでもあれば、不安を感じさせるような作品群に思えました。
この世界と異化されているような世界が描き出されていると言っても良いのでしょうか。
どんなアーティストがこの一派に属するのかについても紹介されているのですが、多くは私たちにあまり馴染みのない作家だと思います。
有名なところであげられているのは(誰をあげるのかについては異論もあるでしょうが)、キリコ、ミロ辺りであり、なんと藤田嗣治の名前まで見られます(そうかなぁという感じもしないではありませんが……)。
その作品は上記のとおり、表現主義と対峙して語られることが多いようなのですが、熱く、主情的な表現主義に対して、冷たく醒めて、客体優位的な視覚に依拠した作品であると解説されてもいます。
例えば、ノイエ・ザハリヒカイトの肖像画が沢山あるのですが、モデルがにこやかに開放的な表情を浮かべている作品はおよそ一点もないと指摘されています。
確かに、どの肖像画を見てもその表情は固く、あるいは無表情なのです。
それがまた怖さというか、不安を醸しだすのですね。
シュルレアリスム、その前身であるダダとの関連も説き起こされており、先ほどノイエ・ザハリヒカイトの一人として名前が揚げられたキリコなどはシュルレアリストとしても取り上げられますので、その境界が近しいことは了解されると思います。
また、『入れ子』を多用したのも特徴の一つかもしれません。
画中画や、絵に描かれた窓の外に風景などが見えている構図、あるいは鏡やガラス球、そしてそこに収斂されてしまっている周囲の世界などがよく描かれているようです。
とにかく、何とも不思議な作品群で、視線が引きつけられてしまう力のある作品なのですが、なかなか見る機会がない作品群であり、本書は大変貴重ではないかと思います。
本書にも多くの図版が掲載されているのですが、文庫版であることから、小さなモノクロ図版であることが大変残念です。
ノイエ・ザハリヒカイトの作品を集めた画集はないかなと探しているのですが、これがなかなか……。
関心を持たれた方は是非一度ページをめくってみて、そこに掲載されている図版を眺めてみてください。
何とも言えない感情を掻き立てられるのではないかと思います。
読了時間メーター
■■■ 普通(1~2日あれば読める)
マジック・リアリズムというと、ガルシア・マルケスなどの作品を思い浮かべるのではないかと思うのですが、この本で取り上げている『魔術的リアリズム』はそれではありません。
1920年代のドイツを中心として発生した美術ムーブメントのことなんですが、これが名前が定着する前に消えてしまった、ほんの短い期間の運動だったのです。
それは、当時大きな動きとなっていたドイツ表現主義と対立するような運動でもあったということなのですが、『新即物主義』(ノイエ・ザハリヒカイト:die neue Sachlichkeit)と呼ばれ、また、『魔術的リアリズム』(die magische Realismus)と呼ばれることもあった動きでした。
あまりにも短い期間で消えてしまった運動だったこともあり、固有の名前を付さず、『表現主義以降』と呼ばれることもあるようです。
とは言え、マニエリスムについての著作をものした種村氏ですから、このノイエ・ザハリヒカイトも、マニエリスムと同様に、1920年代ドイツにだけ固有にみられるものではなく、時を超え、場所を移して再生されたことがあるのだとも主張します。
いずれにしても、なかなか私たちの目に触れることが無い、相当にマイナーなムーブメントであることは間違いないと思われます。
本書では、このノイエ・ザハリヒカイトに属する作家、作品を様々に紹介してくれる貴重なものなのですが、その作品を見ていると非常にインパクトのある、それでいてどこかノスタルジックでもあれば、不安を感じさせるような作品群に思えました。
この世界と異化されているような世界が描き出されていると言っても良いのでしょうか。
どんなアーティストがこの一派に属するのかについても紹介されているのですが、多くは私たちにあまり馴染みのない作家だと思います。
有名なところであげられているのは(誰をあげるのかについては異論もあるでしょうが)、キリコ、ミロ辺りであり、なんと藤田嗣治の名前まで見られます(そうかなぁという感じもしないではありませんが……)。
その作品は上記のとおり、表現主義と対峙して語られることが多いようなのですが、熱く、主情的な表現主義に対して、冷たく醒めて、客体優位的な視覚に依拠した作品であると解説されてもいます。
例えば、ノイエ・ザハリヒカイトの肖像画が沢山あるのですが、モデルがにこやかに開放的な表情を浮かべている作品はおよそ一点もないと指摘されています。
確かに、どの肖像画を見てもその表情は固く、あるいは無表情なのです。
それがまた怖さというか、不安を醸しだすのですね。
シュルレアリスム、その前身であるダダとの関連も説き起こされており、先ほどノイエ・ザハリヒカイトの一人として名前が揚げられたキリコなどはシュルレアリストとしても取り上げられますので、その境界が近しいことは了解されると思います。
また、『入れ子』を多用したのも特徴の一つかもしれません。
画中画や、絵に描かれた窓の外に風景などが見えている構図、あるいは鏡やガラス球、そしてそこに収斂されてしまっている周囲の世界などがよく描かれているようです。
とにかく、何とも不思議な作品群で、視線が引きつけられてしまう力のある作品なのですが、なかなか見る機会がない作品群であり、本書は大変貴重ではないかと思います。
本書にも多くの図版が掲載されているのですが、文庫版であることから、小さなモノクロ図版であることが大変残念です。
ノイエ・ザハリヒカイトの作品を集めた画集はないかなと探しているのですが、これがなかなか……。
関心を持たれた方は是非一度ページをめくってみて、そこに掲載されている図版を眺めてみてください。
何とも言えない感情を掻き立てられるのではないかと思います。
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幻想文学、SF、ミステリ、アート系などの怪しいモノ大好きです。ご紹介レビューが基本ですが、私のレビューで読んでみようかなと思って頂けたらうれしいです。世界中にはまだ読んでいない沢山の良い本がある!
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- 出版社:筑摩書房
- ページ数:356
- ISBN:9784480092786
- 発売日:2010年02月09日
- 価格:1365円
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