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星落秋風五丈原
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サーヴィス・エースは貴方から
バーティ=ウースターは、ウィロビー伯父から小遣いを貰って暮らしている独身貴族。そんな彼の元に、叔母や友人が様々なトラブルを持ち込む。ところが、引き受けたバーティが、勇んで動けば動くほど、なぜか事態は泥沼化。そんなバーティを、依頼人ともども沼から引きあげてくれるのが、有能な執事ジーヴズ。

一話完結形式。「事件簿」と銘打ってはいるが、猟奇殺人とか遺産相続をめぐる陰謀とか、おどろおどろしい類いのものではない。「明日までにこの金を払わねェと、簀巻きにしてドーバー海峡に放り込むぞ!」(どこの国だ)とか「この首飾りが戻らないと、王妃様は窮地に立たされてしまうのだ!」(いつの時代だ)という深刻さとは無縁である。悩み事とはせいぜいが、『居座った従兄達をどうすれば南アフリカに行かせられるか』『叔母の知人の役者志望をどうやったら止められるか』という他愛のない内容。ジーヴズ採用後の最初の事件(『ジーヴズの初仕事』)もやっぱりそう。バーティは回顧録を出版しようとするパトロンの伯父と、回顧録に父の過去を載せて欲しくないフィアンセとの板挟みになる。金を取るか、愛を取るか。「それが問題だ」悩むバーティ。本人は至って真剣なのだが、何ら利害関係を持たない外野から見れば、答えは簡単に出ている。「正直に全部話しちゃえばいいんだよ。」だが、それができないのが貴族サマのブライド。どっちにもいい顔をして、まわりからも褒められたい。「そんな虫のいい話あるか!」と激怒された方々、ご安心を。この物語がイギリスで受けたのは、そんな予定調和をジーヴズが巧みに外していった所にある。ただ単純に解決したのでは面白くない。それでは、従僕の手柄は主人の手柄になってしまうからだ。いくらジーヴズが自分の威を笠に着て、手柄を横取りするようなタイプではないにしても、それでは話がウマすぎる。そうなのだ、この話には、必ずもう一つオマケがついている。オマケの箱を開けた後で、もう一度考えてみてもらいたい。さて、本当にトクをしたのは、誰でしょう?

ジーヴズの機知に拍手喝采する一方で、バーティや友人ビンゴをはじめ、貴族達のダメダメぶりを笑うのだが、この物語、「人を笑う」事への後ろめたさが全然ない。だから読後感もすっきりしている。そう、まるでジ−ヴズがTPOに応じて作ってくれるカクテルのように。
言葉使いも身なりも、全てが完璧な彼なのだけれど、耳に聞こえのいい言葉の裏には、まだまだ秘密がいっぱいだ。『ジーヴズの春』では隠されたロマンスが明らかになる。一体彼はどんな人物なのだろう?

彼の頭に天使の輪を見るか、はたまた背後に悪魔のしっぽを見るか。それは読む貴方次第。さて、あなたは、天国コース、地獄コース、どちらのサーヴィスをお選びに?

バーティ&ジ―ヴスシリーズ
感謝だ、ジーヴス
ジーヴスとねこさらい
サンキュー、ジーヴス
ジーヴスと恋の季節
ウースター家の掟
がんばれ、ジーヴス
それゆけ、ジーヴス
ジーヴスと封建精神
ノンシリーズ
ゴルフ人生
ユークリッジの商売道 (P・G・ウッドハウス選集4)
マリナー氏の冒険譚 (P・G・ウッドハウス選集 3)
アーチー若気の至り
スウープ!
エムズワ―ス卿シリーズ
ブランディングズ城のスカラベ騒動
エムズワース卿の受難録 (P・G・ウッドハウス選集 2)
ブランディングズ城の夏の稲妻 (ウッドハウス・スペシャル)
ボドキン家の強運 (ウッドハウス名作選)
春どきのフレッド伯父さん
ブランディングズ城の救世主
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星落秋風五丈原
星落秋風五丈原 さん本が好き!1級(書評数:2320 件)

2005年より書評業。外国人向け情報誌の編集&翻訳、論文添削をしています。生きていく上で大切なことを教えてくれた本、懐かしい思い出と共にある本、これからも様々な本と出会えればと思います。

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