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ぷるーと
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作家でもあるドクターが見た、未踏峰の山に挑む山男たちの姿。
 1965年、京都山岳連盟は、カラコルムの未踏峰ディランの初登攀を試みた。作者はこの登山隊にドクターとして参加しており、このときの山男たちの挑戦を小説化したのがこの作品だ。

 世情が安定しないパキスタンへの渡航自体がかなり難しかった中、彼らは長い準備の末にやっと憧れのヒマラヤにやって来た。だが、そこからすぐに登山の話が始まるわけではない。世は不況のさなか、ようやく集まった資金を闇ルートでいかに高額の現地ルピーと交感するか。さらには、大量の荷物を最寄りの村に運ぶまでの大変さ。さらにはその大量に荷物を150人のポーターでベースキャンプまで運んでいく大変さ。海外遠征隊の報告では峩々たる山の峻厳さや登頂の華やかさばかりが目立つが、こういった苦労あってこその登頂なのだとしみじみと感じさせられる。

 ベースキャンプから少しずつディランの奥へと踏み込んでいくときの描写は、自分がその山にいるかのような気持ちにさせる。いつ崩れるとも知れないクレバス。突然吹き荒れる突風。天候の急変。極限の寒さ。こういった中で、それでも山に登りたいと思う山男たちの素顔が、見事に描かれている。

 山中の厳しい自然と初夏へと移りつつあるのどかなベースキャンプの対比は、そのまま、厳しさの中で闘っている隊員たちと彼らの中では少し浮いているドクターとの対比でもあるようだ。作者は、ドクターとしてはあまり有能ではなかったようだが、この一風変わったドクターのふるまいは、むしろ隊員たちを和ませたのではなかったか。
 そして、そのドクターは、帰国後、このような、素晴らしい作品を書いてくれた。ディラン峰の登頂には失敗したが、隊員たちにとってこの『白きたおやかな峰』は、何よりの登山記録になったのではないだろうか。

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ぷるーと
ぷるーと さん本が好き!1級(書評数:2934 件)

 ホラー以外は、何でも読みます。みなさんの書評を読むのも楽しみです。
 よろしくお願いします。
 

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