書評でつながる読書コミュニティ
  1. ページ目
詳細検索
タイトル
著者
出版社
ISBN
  • ログイン
無料会員登録

かもめ通信
レビュアー:
猫は空を飛べないしカモメは猫にはなれないけれど、互いの違いを認めてなお慈しむ。実の親子でさえ、なかなか違いを認めあえない人間を、その足元から見上げながら、猫は今日もため息をもらしているかもしれないね。
そのカモメはやっとの思いで原油に覆われた海を抜け出て飛び立った。
たどり着いたのはハンブルクの港町。
そこで力尽きて、黒い猫ゾルバの住む家のバルコニーに墜落した。
瀕死のカモメは、最後の力を振り絞って、卵を産み落とす決心をする。
雄猫ゾルバに卵を託そうというのだ。
そうしてカモメはゾルバに3つの誓いを立てさせた。


「わたしが産む卵は食べないと、約束して下さい」
「そして、ひなが生まれるまで、卵のめんどうをみて下さい」
「最後に、ひなに飛ぶことを教えてやると、約束して下さい」


母カモメの懇願にゾルバは思わず首を振る。


港の猫たちにとって、一匹の猫が名誉にかけて誓った約束は、
港じゅうのすべての猫の約束にひとしい。
仲間の猫たちの協力を得ながら、ゾルバの子育てが始まった。


フォルトゥナータ(幸運の者の意)と名付けられたひなカモメは、
ゾルバたちの愛情に育まれ、健やかに成長する。
そうして、やがて3つめの誓いを果たすときがやってきた。


愛する者を守るためなら、時には敵対者と渡り合い、譲歩だってする。
みんなと同じでありたいカモメに、違っていて良いんだ、
カモメであることに誇りを持つんだと
きちんと教えてあげることができる。
力が及ばないときは、周囲を説き伏せてでも、
適切な相手に助言を求めることもする。
ゾルバはまさに「ママ」の鏡の雄猫だ。


それに比べ人間はどうだ。
海に原油を垂れ流し、母親カモメを死に追いやって、
かわいがっていると言いながら、チンパンジーにビールを与えアル中にしてしまう。
「最高の善意から、最悪の事態を引き起こす」ことすら
平気でやってのけてしまうのだから、なんだかかなり恥ずかしい。


ほら、今日も港でカモメが騒いでいるよ。
きっとあちこちから集めてきた情報を交換しているんだ。
あの港町の猫の話か、
あの船の漁の話か、
あの岸から流れ出ているという恐ろしい汚染物質の話かも…
カモメは人間が近づくと空へと逃げてしまうけれど、
もしも知りたいことがあるのなら、猫に聞いてみると良い。
猫は空を飛べないけれど、
世界中の出来事を何でも知っている。
なんといっても猫は、
あらゆる鳥や動物たち、人間の言葉だってしっかり理解できるのだから。
もっとも彼らが、心を開いて、話相手になってくれるかどうかは、
「人間」次第なのかもしれないが。

お気に入り度:本の評価ポイント本の評価ポイント本の評価ポイント本の評価ポイント
掲載日:
外部ブログURLが設定されていません
投票する
投票するには、ログインしてください。
かもめ通信
かもめ通信 さん本が好き!免許皆伝(書評数:2267 件)

本も食べ物も後味の悪くないものが好きです。気に入ると何度でも同じ本を読みますが、読まず嫌いも多いかも。2020.10.1からサイト献本書評以外は原則★なし(超絶お気に入り本のみ5つ★を表示)で投稿しています。

読んで楽しい:15票
素晴らしい洞察:1票
参考になる:19票
共感した:4票
あなたの感想は?
投票するには、ログインしてください。

この書評へのコメント

  1. hacker2012-03-16 07:57

    かもめ通信さん、期待していたレビューを、ありがとうございます。

    同じ作者の『センチメンタルな殺し屋』も良かったですが、今読んでいる処女作『ラブストーリーを読む老人』も、なかなかのものです。近々レビューを書きますので、参考にして下さい。

  2. かもめ通信2012-03-16 13:54

    hackerさん!
    『ラブストーリーを読む老人』!これも気になっていたんですよ。
    噂では全然ロマンチックじゃないらしいですね?!(笑)
    レビュー楽しみにしています。
    ちなみに私は〝殺し屋〟に行く前にまずは〝狼…〝に手を伸ばす予定です。

  3. hacker2012-03-16 14:06

    確かに、全くロマンチックではありません。ですが、とても良いです。

    『狼…』もレビューを楽しみにしています。奇しくも、両方とも作者の処女作ですね。

  4. かもめ通信2012-03-16 15:24

    hackerさん,やっぱりロマンチックじゃないんですね!(笑)
    内容はもちろん原題も知らないのですが,邦訳のタイトルがなかなか魅力的で,
    かなり気になっています。
    でもねえ。とにかく読みたい本が多すぎて,
    読みたい気持ちになかなか頭も時間もついていけません。
    まあ,こればっかりは,あせってもしょうがないので,
    ゆっくり楽しむことにします(^^;)

  5. きし2012-03-16 18:15

    カモメ通信さん、楽しみにしておりました。
    おかげでまた新鮮に思い返すことができました。ゾルバで高倉健さんを連想…しませんでしたよね(笑)
    コメントで話題になっている作品のお二人の書評もこれからの楽しみにさせていただきます。

  6. かもめ通信2012-03-16 21:47

    きしさん、芸能関係にはとんと疎い私ですが、あえて申し上げますと、ゾルバ役には思い切って若手を起用し、健さんには台詞が少なくても格好いい「向かい風」あたりをお願いしたいと思うのですがいかがでしょうか?(笑)

    ちなみに私、hackerさんとの話題にのぼっている〝狼…〝を手元に置きつつも、只今ヘンリー君と蜜月中です。もうね!彼ったら煮ても焼いても食えないんですよ!
    きしさんは本当に、ああいう男性がお好みで?(笑)
    私は……おっと、これはまた別の機会に!

  7. きし2012-03-17 10:39

    かもめ通信さん。ああ、そんなコワイ予告編を(^^; 確かに、いい性格してるよねーと言われるタイプが好みかもしれません、ワタクシ。書評が楽しみでコワイです…。

  8. hacker2012-03-17 11:38

    きしさん、かもめ通信さんと二人で盛り上がっていますね。

    本書を、映画化するなら、やはりアニメでしょうね。何語でも良いのでしょうが、思いっきりお国訛りのある吹き替えにしてもらいたいです。

    実写にするなら、もうちょっと若ければ、ゾルバはモーガン・フリーマンにお願いしたいところですが…

  9. きし2012-03-17 13:23

    hackerさん、モーガン・フリーマン、いいです、すごくいいですよ!

  10. かもめ通信2012-03-17 14:02

    きしさん、hackerさん、なるほどモーガン・フリーマンときましたか、渋いですねえ。
    なんだかすぐにでも、映画化されるような気がしてきました。
    その一方で、アニメでも実写でもなかなかこの雰囲気は出し切れないかなとか思ってみたり。そんなことを想像するのもまた楽しいですね。

    きしさん、きしさんの好みの男性をあれこれ言うのも失礼(!)なので、私の方は別の角度からせめてみようかと。なのでどうか期待しないでくださいね。(汗)

  11. noel2020-12-20 21:58


    猫は空を飛べないけれど、
    世界中の出来事を何でも知っている。

    空を飛べないからこそ、悲しいかな、人間的なものの見方しかできない人間に甘んじるしかないのかも。ああ、なんでも、知っている猫になりたい。

    モーガン・フリーマン、いいですね。わたしも賛成です。なんだか、『ショーシャンクの空の下』でしたか、あの映画の一シーンを憶い出してしまいました(これ、つい最近読んだスティーヴン・キングの『刑務所のリタ・ヘイワース』が原題だったのを知りました)。

  12. かもめ通信2020-12-20 21:13

    ふふっ。本も書評もコメント欄も、なにもかもが懐かしいです。
    tsuckienoさんのおかげで、久々に読み返すことができました。
    ありがとうございます。

  13. noel2020-12-20 22:02

    懐かしい憶い出に浸れるのもまた、本読みの醍醐味といいましょうか。一粒で何度もおいしいのが、名書評です。これからも心躍る「書評」を描いてくださいね。

  14. No Image

    コメントするには、ログインしてください。

書評一覧を取得中。。。
  • あなた
  • この書籍の平均
  • この書評

※ログインすると、あなたとこの書評の位置関係がわかります。

『カモメに飛ぶことを教えた猫 (白水Uブックス)』のカテゴリ

フォローする

話題の書評
最新の献本
ページトップへ