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かもめ通信
レビュアー:
Я Чайка (ヤーチャイカ)!あの言葉の裏にはこんな想いがあったのか!(いやいやこれフィクションだってば!)
「わかっていただけますかねえ」と言われたら
反射的に「いやいやそれ、絶対わからないから!」と
話を聞く前に思ってしまうタイプなので、
この本の存在は知っていたが読んだことはなかった。

アメリカの作家の短編集で
史実を織り交ぜたフィクションだというのに
ソ連が生んだ初の女性宇宙飛行士テレシコワの写真を表紙にするなんて
なんだかちょっとブラックジョークがキツそうだという気もしていた。

ところが、遅ればせながら手にした本は
そういう偏見を吹っ飛ばすものすごく面白い本だった。

とにもかくにも
作者のなりきり度がすごいのだ。

事故当時チェルノブイリで技術主任をしていた男、
国境で軍務についている古代ローマの書記官、
ナチスドイツのアーネンエルベに属しチベットでイエティを探している学者、
世界初の女性宇宙飛行士テレシコワ、
ルイ十六世の首をはねた死刑執行人サンソンといった
間違いなく語るべき物語を抱えていそうな人物たちだけでなく
ハイスクールのアメフトチームの選手や、
サマーキャンプに参加中の子どもなど、
あの人にも、この人にもなりきった一人称語りは
もしかしてこれ本人の手記なのでは!?と思ってしまいそうなほど。


豊富な参考文献に裏打ちされた史実を基にした小説は
さほど珍しいものではない。
そうした小説の中には、作者のもつ思想や倫理観で、
過去のあれこれを褒め称えたり断罪したりするものも多く、
それはそれでそうした作者の思考そのものが読みどころでもあるものだが
ともすれば教訓めいてしまいがちだったりもする。

ところがこの本に収録されている作品はといえば
読み応えある長編小説を何本も書けるであろう材料を
贅沢につかっているにもかかわらず、
作者の意見が差し込まれる前に
そこで終るのか!という絶妙なタイミングでピリオドが打たれてしまう。
続きは読者が想像するしかないのだが
短編小説にありがちな置いてきぼりにされたような読後感とは無縁で
人生確かに、そう都合良くあれこれ決着ついたりしないものだよなと
妙に説得力があって、その後を想像するのもまた楽しい。

濃密な短篇たちは、劇的なできごとともに
兄弟や親子や恋人や同僚など、
人と人との間に流れる微妙なあれこれが盛り込まれていて
それが非日常の物語をより身近に感じさせるとともに
読みながら人は皆無力な存在であることを思い出させ、
寂しさや切なさを際立たせもする。

なんともすごいものを読んでしまった。
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かもめ通信
かもめ通信 さん本が好き!免許皆伝(書評数:2234 件)

本も食べ物も後味の悪くないものが好きです。気に入ると何度でも同じ本を読みますが、読まず嫌いも多いかも。2020.10.1からサイト献本書評以外は原則★なし(超絶お気に入り本のみ5つ★を表示)で投稿しています。

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参考になる:18票
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この書評へのコメント

  1. かもめ通信2019-08-26 05:15

    祝 #白水社 #エクスリブリス #創刊10周年 記念読書会 
    https://www.honzuki.jp/bookclub/theme/no358/index.html?latest=20
    60作中38作が紹介されました。
    まだ紹介されていない作品はもちろん既出作品のレビューも大歓迎です。
    皆様、ぜひご参加ください。

  2. No Image

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