星落秋風五丈原さん
レビュアー:
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天才と書いて「傲慢」とルビをふる~4人の天才に囲まれた1人の女性の悲劇
本を開くとナショナル・ポートレート・ギャラリー所蔵の四つの肖像画がある。書かれているのは、フェミニズム思想家メアリ・ウルストンクラフト。『ケイレブ・ウィリアムズ』などの著書で知られるウィリアム・ゴドウィン。『フランケンシュタイン』の著者メアリー・シェリー。その夫で詩人のパーシー・ビッシュ・シェリー。その四人全てと縁が深かった一人の女性が自殺した。彼女の名はファニー・ウルストンクラフト・ゴドウィン。メアリ・ウルストンクラフトの娘にして、ゴドウィンの義理の娘、そしてメアリー・シェリーの義理の姉、詩人シェリーの義姉。当代きっての天才と呼ばれる人達に囲まれていたのに、なぜ彼女は自殺を遂げなければならなかったのか。そこには、天才たちに振りまわされ続けた女性の悲劇があった。
ファニーの母メアリは結婚否定論者だった。だからファニーの父親と結婚しなかったわけではない。棄てられたのだ。次のパートナー、ゴドウィンとも当初結婚する予定はなく、彼にもその気はなかったが、メアリの妊娠が発覚。子供を私生児にするに忍びなかった彼女の懇願で二人は結婚。しかしメアリは娘メアリーの出産後、産褥熱で亡くなってしまう。
その後、ゴドウィンが為さぬ仲の娘達を独りで育て上げたかといえばさにあらず。それまでの結婚制度否定の態度をかなぐり捨て、凄まじいまでの婚活を展開。
ところが
と丁寧な言葉できっぱり断られたり、
などと、結婚否定論者にしてはあんまりな誘い文句によって悉く撃沈。
やっとのことで、私生児を抱えていた女性と結婚する。しかしゴドウィンにはそもそも商才がなく、借金取りから常に追われていた。そして彼等の対応をするのはファニーだった。妹メアリー、或いは後妻との間に生まれた義妹クレアが長姉を助けるかといえばこれも違っており、一家の生計を支えるための負担は、幼い頃からファニーにふりかかった。ちなみにクレアは、後にバイロンの愛人となる。
有名人の傍にいれば恩恵を受けたり、或いは影響されて自分の生き方を変えてゆくのでは?というのが大方の想像だろう。ところがファニーの周囲の天才達は、凡人であるファニーを軽んじているとしか思えない。「自分は他の人とは違う」という自覚を持っており、天才のためには凡人はいくらでも犠牲になってもいいと思っているのではないか、とさえ感じる。もし母メアリがファニーの時にも相手と結婚していたら、もし義父に商才があったら、ファニーが『フランケンシュタイン』の著者になっていたとは限らない。しかし少なくとも、自分の存在理由を見出し、早すぎる死を選ばなかった事は確かである。「天才だから仕方がない」と4人の男女を認められないのは、自身もまた、ファニー同様凡人の一人だからだろうか。
ファニーの母メアリは結婚否定論者だった。だからファニーの父親と結婚しなかったわけではない。棄てられたのだ。次のパートナー、ゴドウィンとも当初結婚する予定はなく、彼にもその気はなかったが、メアリの妊娠が発覚。子供を私生児にするに忍びなかった彼女の懇願で二人は結婚。しかしメアリは娘メアリーの出産後、産褥熱で亡くなってしまう。
その後、ゴドウィンが為さぬ仲の娘達を独りで育て上げたかといえばさにあらず。それまでの結婚制度否定の態度をかなぐり捨て、凄まじいまでの婚活を展開。
ところが
貴方の心の落ち着きを混乱させるのは大変心が痛みます。でも私には、邪悪なものを治すことはできませんわ。私自身の清廉潔白を犠牲にせずには
と丁寧な言葉できっぱり断られたり、
この縁組によって自尊心を取り戻されるでしょうし、将来の平和な暮らしも手に入れることができるのです。社会的な地位もお約束しましょう
などと、結婚否定論者にしてはあんまりな誘い文句によって悉く撃沈。
やっとのことで、私生児を抱えていた女性と結婚する。しかしゴドウィンにはそもそも商才がなく、借金取りから常に追われていた。そして彼等の対応をするのはファニーだった。妹メアリー、或いは後妻との間に生まれた義妹クレアが長姉を助けるかといえばこれも違っており、一家の生計を支えるための負担は、幼い頃からファニーにふりかかった。ちなみにクレアは、後にバイロンの愛人となる。
有名人の傍にいれば恩恵を受けたり、或いは影響されて自分の生き方を変えてゆくのでは?というのが大方の想像だろう。ところがファニーの周囲の天才達は、凡人であるファニーを軽んじているとしか思えない。「自分は他の人とは違う」という自覚を持っており、天才のためには凡人はいくらでも犠牲になってもいいと思っているのではないか、とさえ感じる。もし母メアリがファニーの時にも相手と結婚していたら、もし義父に商才があったら、ファニーが『フランケンシュタイン』の著者になっていたとは限らない。しかし少なくとも、自分の存在理由を見出し、早すぎる死を選ばなかった事は確かである。「天才だから仕方がない」と4人の男女を認められないのは、自身もまた、ファニー同様凡人の一人だからだろうか。
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2005年より書評業。外国人向け情報誌の編集&翻訳、論文添削をしています。生きていく上で大切なことを教えてくれた本、懐かしい思い出と共にある本、これからも様々な本と出会えればと思います。
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- 出版社:音羽書房鶴見書店
- ページ数:406
- ISBN:9784755302893
- 発売日:2016年07月01日
- 価格:3024円
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