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rodolfo1さん
rodolfo1
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東京に暮らす中年男女の心の中に隠された秘密を巡る8編の短編小説集。大人のための切ない都市小説。小説を代表するのは東京アクアリウムであったが、心に残ったのは猫別れだった。
小池真理子作「東京アクアリウム」を読みました。

【リリー・マルレーン】サトコは古なじみのリリーの店にもう長い事行っていませんでした。リリーは62歳になるゲイでした。リリーの口癖は、同性愛者ほど薄気味わるいもんはない、でした。リリーの彼氏は洋一という3歳年上の妻子持ちでした。20年前にはじめてリリーの店を訪れたサトコは、そこで洋一と、リリーが歌う十八番のリリー・マルレーンに聞き入りました。その二カ月後に洋一は溺死したのでした。

サトコはその後、結婚と離婚を繰り返し、最後に不倫関係になった男に振られ、久しぶりにリリーの店を訪れました。サトコはリリーに、私達は男運が悪いと嘆き。。。その年の暮れ、いつものように一人で洋一の供養をしていたリリーに電話したサトコは、一緒に供養をしようと店に行くとそこには。。。

【風】悦子が千晶の通夜会場に到着すると、風が強く吹いていました。千晶は享年45歳でした。悦子の大学時代からのたった一人の親友でした。千晶の夫奥田は女遊びにはまり、それを義母に愚痴ると、働いて気分転換すればと言われ、千晶は仕事に出、結構仕事を楽しみました。悦子は住宅販売会社に勤め、仕事にはまって結婚もせず、適当に男と火遊びしながら順調に昇進していきました。一年前、千晶に死病が見つかり、千晶は悦子に浩の事を打ち明けました。浩は奥田と同時期に千晶を見染め。。。実は4年ほど前千晶は浩と再会し、ある約束を。。。風の中、通夜の当日現れた浩は。。。

【二匹の小鬼】史子は飲んだくれては荒れる昇一の世話を焼く生活に明け暮れていました。元々略奪婚で結婚し、大変仲の良かった2人でしたが、ある事件をきっかけにこのような関係に陥ったのでした。最近結婚したばかりの部下の石野に愚痴をこぼしました。石野は何故史子が昇一との結婚を続けているのかわからないと言い、離婚を口にした史子に昇一は、楽しい暮らしは必ず終わる、人間はたった1%の楽しみの為に99%の地獄を経験するのだと言いました。しかし昇一は、出て行くなと懇願する事も、自分の世話をし続けろと命令する事も出来ず、酒浸りになるばかりでした。憎しみでつながったそうした2人の暮らしはまるで。。。

【東京アクアリウム】私は、巨大な水槽の中のような広々としたカフェで、親友の佐和と待合せ、酒を酌み交わしました。私も佐和も40代半ば過ぎでした。私達は闇の中にいると安心します。肉体的にも精神的にもそういう生き物になりつつあって、やがては闇と同化するものと思われました。私と佐和は、男を通して負ってしまった傷と、男と共有した至福のひとときが同じだったのでした。編集者だった私の覆面座談会に同席したいと言って来たのが、美容ファッション関係のライターやイベンターを抱える会社社長の佐和でした。私と佐和は、今付き合っている男への悩みも、結婚して離婚した経緯もそっくりでした。すると2人は、互いに幽霊を見た話を始め。。。

【ダナエ】私がその女に会ったのは、上司に連れられて行った高級和食店でした。女は中居をしていましたが、いかにも体調が悪そうで、しばしば注文を間違えました。上司は女将にその中居の事をクレームしました。しかし銀座のクラブで2次会をしている時に私は和食屋に携帯を忘れた事に気づき、電話すると女将がその中居に届けさせると言いました。現れた女は私の前で昏倒し、訳あって自宅に帰りたくないと言う女に、仕方なく私は女を自宅に連れ帰り、女は私のベッドで眠りました。

女の名前は花でした。私は花を残して出勤し、戻ると花はまだ部屋に居ました。花はシャワーを浴びて歯を磨き、私は乳液や花の食べ物を買って戻りました。花は私のワイシャツを着ていました。食べ物を食べながら花は、今の彼にDVを受けていると打ち明け。。。三日三晩泊まった花は最後に私に添い寝をせがみ。。。

【モッキンバードの夜】FMラジオ局で働く38歳の私は、毎日の激務にいらいらしていました。彼氏のマコトは40歳で17歳年下の彼女が居ました。彼女は自殺願望がある為にマコトは別れられませんでした。一度彼女は入院騒ぎを起こし、私の友達は、それはストーカーなのだと指摘しましたが、かつて友人に自殺された事のある私にはそこまで思い切れませんでした。ある夜マコトは、彼女が妊娠したと打ち明け、私は凍り付きました。。。

マコトと別れた私はモッキンバードというバーで酒を飲み、店に入って来た馴染み客らしい女は、思いっきり春だ、とバーテンに言い、そう言えばこの店は春告鳥と言う名前の店だったと私は思い。。。

【猫別れ】美千代の母親は認知症をこじらせ、もうすぐ介護施設に入る事になっていました。愛猫のチャーをあやす時だけが機嫌の良い母親でした。美千代は浮気して他所の女に子供を作った夫と離婚し、高校を留年して引きこもりになっている娘のまみと同居していました。もともと野良だったチャーを拾って来たのはまみでしたが、離婚寸前だった美千代に遠慮して自分で飼うとは言いませんでした。母親が施設に行く前日、美千代は出前の鮨を取ってお別れ会をしました。まみも何も言わずに参加しました。チャーを抱いて別れの挨拶をする母親を見てまみは。。。

【父の手、父の声】夫にとって私はただの息子の母親で、私には何の興味もありませんでした。そんな私の生き甲斐は、二ヶ月に一度東京から長野まで行って寝る三橋さんの存在でした。私が子供の頃、両親は諍いが絶えませんでした。母は心を病み、父は母にも子供にも心を閉ざしていました。そんな私が望んだのはごく平凡で幸せな家庭であり、今のところ私の家庭には綻びはありませんでした。

私の父親は、浮気がばれて母親に自殺未遂をされ、母親は実家に帰り、父親は女と別れ、必死で2人の子供を子育てしました。しかし父親は次第に心を閉ざし、父親が大好きだった私は三橋さんに父親の面影を。。。

8編の短編小説の根底を流れるものは、大人の秘密ではなかったかと思います。主人公達はみな自らの心の奥底にある秘密を抱えており、ある主人公は秘密を友人と共有し、ある主人公は孤独の内に飴をしゃぶるように自分の秘密をいとおしみます。大人のための切ない都市小説集であったと思われました。
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rodolfo1
rodolfo1 さん本が好き!1級(書評数:867 件)

こんにちは。ブクレコ難民です。今後はこちらでよろしくお願いいたします。

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