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不穏な社会を象徴する、雪の重苦しさに息が詰まりそうになる。

雪〔新訳版〕 (上)
上下巻合わせての書評です。

1990年初頭。かつては旅行や商売の拠点として栄えたものの、往年の栄華も消え去り、貧困にあえぐアルメニア国境にほど近い地方都市カルス。この地に、かつて学生運動をしていたことからドイツに亡命していた詩人のKaが、雇われ記者としてやってきた。 

カルスは、イスラム主義者と政府、世俗主義が混在する魑魅魍魎の無法地帯で、真昼間から飲んだくれたちが横行し、銃撃事件も絶えない。町の西洋化が進んでいることから、スカーフをとって西洋化することを強制された少女たちが自殺を繰り返している。Kaは、そういった事件を追いながらかつての知り合いと恋に落ちる。

数年ぶりに大雪となり、町への交通はとざされた。この外部と遮断された町でクーデターが起き、Kaは宗教と暴力の渦中に巻き込まれていく。

イスラム主義と欧化主義の対立。貧しさゆえに宗教にすがる人びとと、国の政教分離政策。神を信じるか信じないかという論争。こういった現代のイスラム社会の内情を描いた作品は数少なく、この作品は、イスラム原理主義が貧しい下層階級の中でどのように浸透していくのかということを理解するうえでとても興味深い作品である。

異なる文明との出会いと共存。それは、アジアの諸国が抱える大きな問題だが、貧しさの中で近代化、西洋化が進んでいくとき、自分たちの国、自分たちの文化、自分たちの宗教をどのようにして守っていくかということは、自分自身のアイデンティティを守るということでもあるのだ。
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  • 掲載日:2020/12/22
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