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紅い芥子粒
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語り手は絶叫する。「おう、『ろおれんぞ』は女じゃ。『ろおれんぞ』は女じゃ」

※ネタバレ注意! 以下の文には結末や犯人など重要な内容が含まれている場合があります。

大正七年に発表された作品です。作者26歳。

奉教人とは、キリスト教徒のこと。

ちょっと変わった文体で書かれています。桃山時代の京阪地方の口語体だそうです。
こんな感じで始まります。

去んぬる頃、日本長崎の「さんた・るちや」と申す「えけれしや」(寺院)に、「ろおれんぞ」と申すこの国の少年がござった。


ある年のクリスマスの夜、寺院の戸口に、飢えて倒れていた「ろおれんぞ」。
伴天連が憐れんで、寺に養われる身となります。

「ろおれんぞ」は素性を問われると、故郷は「はらいそ」(天国)、父の名は「でうす」と答えます。顔かたちは、玉のように清らかで、声もやさしく、天使のよう。
ここに「しめおん」という「いるまん」(法兄弟)がいて、弟のように「ろおれんぞ」をいつくしみます。
「しめおん」は、むくつけき大男。槍一筋の武士の家柄の出でした。
「しめおん」と「ろおれんぞ」が睦まじくするさまは、荒鷲に鳩がなつくようだったといいます。

三年の月日が流れ、「ろおれんぞ」は元服する年頃になりました。
このころ、町の傘張りの娘と「ろおれんぞ」が、恋仲であるという噂が流れ、ほどなく娘の妊娠騒ぎ。娘は、「ろおれんぞ」の子だと言い張ります。

どんなに否定しても、それを証拠立てるすべはなく、「ろおれんぞ」は破門されてしまいます。
寺を追われる「ろおれんぞ」。それは、「しめおん」と「ろおれんぞ」の別れでもありました。
「しめおん」は、「ろおれんぞ」に欺かれたと思い、怒り嘆きます。
「ろおれんぞ」は、「しめおん」が自分を信じてくれないことが、悲しく情けない。

寺を追われた「ろおれんぞ」は、町はずれの非人小屋に起き伏しし、物乞いをして命をつなぎます。

月満ちて、傘張りの娘は、女の子を出産。

「ろおれんぞ」の身の潔白が証明されたのは、長崎の町を半分ほど焼き尽くす大火事の日でした。
傘張りの娘の赤子が、家の中に取り残されてしまいます。
かけつけた「ろおれんぞ」。
燃え盛る火の中にとびこんで、わが身を犠牲にして、赤子を助けます。
そのとき、人々は見たのです。

いみじくも美しい少年の胸には、焦げ破れた衣のひまから、清らかな二つの乳房が、玉のように露れて居るではないか


語り手は絶叫します。

おう、「ろおれんぞ」は女じゃ。「ろおれんぞ」は女じゃ。




「ろおれんぞ」は、被差別民の子であったのかもしれません。
奉教人になったのも、神のもとでの平等を説く耶蘇教の教えに惹かれたからで。

彼女にとって人の世こそ「いんへるの」(地獄)、寺院の暮らしはこの世の「はらいそ」(天国)。
いつかは寺院に戻りたかったのでしょう。
夜毎に寺に参っていたといいます。

キリシタンの信仰伝説として書かれた物語ですが、女であることを隠し通して「まるちる」(殉教)した「ろおれんぞ」が哀れです(気づかれないわけないじゃん、と思うけど)。
大好きな「しめおん」に抱かれて、故郷の「はらいそ」に旅立てたことが、せめてもの救いでしょうか(ほんとは、「しめおん」はわかってたんでしょ、と思うけど)。

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紅い芥子粒
紅い芥子粒 さん本が好き!1級(書評数:561 件)

読書は、登山のようなものだと思っています。読み終わるまでが上り、考えて感想や書評を書き終えるまでが下り。頂上からどんな景色が見られるか、ワクワクしながら読書という登山を楽しんでいます。

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この書評へのコメント

  1. noel2022-03-15 09:35

    >(ほんとは、「しめおん」はわかってたんでしょ、と思うけど)
    とは、これまた赤い芥子粒さんらしくない(いや、らしいか)揶揄っぽい捉え方でククッと笑えてしまいました。ですよねえ、あんなに仲良かったんだから、その熱き血潮に触れもみで素知らぬ顔をしているワケにはいきませんものね。

  2. 紅い芥子粒2022-03-15 09:29

    これはねえ、文章に惹かれて、ムズムズしながら読みました。一度読んだら、ちょっと忘れられない小説ですね。

  3. noel2022-03-15 09:37

    確かにインパクトはありますし、ストーリィを聴くだけでも印象に残ります。まだ読んだことはありませんが……。

  4. No Image

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