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DB
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巨匠に夢を語らせる話
イタリアの現代作家タブッキが、二十人の過去の巨匠が見たかもしれない夢を描いた作品です。
最初に登場するのはダイダロス、ギリシャ神話の中の工匠です。
宮殿に捕らわれた獣頭の王子と出会い、彼を宮殿から自由にするため知恵を働かせる。
頭が雄牛なのに聡明そうな若者の顔立ちをしているというのはどんなものなのか想像できないが、月明りが見たいという若者に同情したダイダロスは彼の背中に翼をつける。
そして獣頭の若者は月を目指して飛んでいった。
イカロスも夜に飛べばよかったのにと思ってしまった。

古代ローマの詩人オウィディウスは巨大な蝶に変身する夢を見る。
まさに「変身物語」だなと思ったが、意味不明の口笛のような声しか出ないために聴衆にもカエサルにも詩を唄ってきかせることができない。
カエサルの不興をかって羽根を切り落とされ、這って逃げ出す夢は悪夢でしかなかっただろう。

同じく悪夢を見たのはチェッコ・アンジョリエーリというトスカーナの詩人です。
画家の絵に描かれた女性を見ているといつの間にか猫に変身し、生ハムにつられて居酒屋の若者たちに捕まり、油をかけられて火をつけられてしまうという悪夢だ。
「もし僕が火なら、世界を燃やしたい」という男でも悪夢に追われることがあるのだろう。
巻末に作者の紹介した二十人の略歴が書かれていて、アンジョリエーリは「ひたすら他人を罵り侮辱しながら、両親を憎み世界を呪い続けた」と紹介されている。
二十人の巨匠のひとりになぜ彼を選んだのかが謎だ。

作家や詩人、音楽家に画家といった著名人の夢が続きます。
ラブレーの夢はペリゴールの居酒屋でパンタグリュエルと晩餐を共にするものだった。
健啖家のパンタグリュエルと一緒にこれでもかというほど豪華な料理の数々を食べるという夢ですが、フランチェスコ会の修道士だったころの習慣を生涯守って断食をしていたそうです。
空腹を充足するために夢を見るというのもありそうだ。

ドビュッシーは澄んだ夏の夜空の下で浜辺にいる夢を見る。
海で泳いで心地よい疲労感とシャンパンと共に浜辺にいると、そこへニンフを連れたファウヌスが現れます。
まさしく「牧神の午後への前奏曲」のような退廃的な幻想の世界が広がっていた。

二十の夢の最後を飾るのはジークムント・フロイト博士、夢の解釈をする精神科医だ。
ドーラという名の女性になった夢を見たフロイト博士は、自分の夢をどのように解釈するのだろう。
どの夢も夢ならではの短さで面白い。
タブッキの他の作品も読んでみたいと思いました。
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DB
DB さん本が好き!1級(書評数:2034 件)

好きなジャンルは歴史、幻想、SF、科学です。あまり読まないのは恋愛物と流行り物。興味がないのはハウツー本と経済書。読んだ本を自分の好みというフィルターにかけて紹介していきますので、どうぞよろしくお願いします。

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この書評へのコメント

  1. 三太郎2021-10-22 08:27

    タブッキは好きな作家ですがこの本は知りませんでした。読んでみようかな。

    パンタグリュエルと晩餐は僕もお相伴したい。

  2. DB2021-10-22 08:43

    ぜひ読んでみてください(^^)

    「レクイエム」に目をつけていますが、他におすすめのタブッキありますか?

  3. 三太郎2021-10-22 09:31

    「レクイエム」はタブッキが彼と関りがあった死者と会う話ですね。これも夢と関連するのかも。確かポルトガル語で書かれたとか。
    「供述によるとペレイラは…」もポルトガルが舞台でタブッキらしい作品だと思います。
    「インド夜想曲」も実はポルトガルがらみです。
    「島とクジラと女をめぐる断片」は最初に読んだタブッキの作品で、一番好きかも。これもポルトガルの沖に浮かぶ島の話です。

  4. かもめ通信2021-10-22 10:11

    タブッキ大好きなので,お話に是非混ぜて下さい。
    この作品は長らく絶版だったのですが,タブッキの死後,岩波が文庫で復刊したものなんですよね。

    読みやすさからいうと,初めてタブッキを読むという方には『逆さまゲーム』(短編集)か『供述によるとペレイラは…』(他の作品に比べると幻想的な要素が少ない)あたりをお薦めすることが多いのですが、三太郎さんのおっしゃるとおり、この本を気に入られたなら,次は『レクイエム』というのもありだと思います。

  5. DB2021-10-22 21:47

    三太郎さん、かもめさん、おすすめありがとうございます。
    どれも面白そうなので、順番に読んでみようと思います(^_-)-☆

  6. No Image

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