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紅い芥子粒
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わらいたいやつは、わらわせておけばいいさ。

※ネタバレ注意! 以下の文には結末や犯人など重要な内容が含まれている場合があります。

芥川龍之介の事実上のデビュー作だそうです。
24歳のとき、第四次「新思潮」に発表、夏目漱石に激賞されたとか。 
この短い小説で、作家としてやっていける自信を深めたといいます。

むかし、禅智内供という偉いお坊さんが、異様に長い鼻に悩まされていました。
まず、見た目が悪い。
食事のとき椀の汁の中に鼻の先が落ちてしまうなど、実害もありました。

内供は、鼻のことをすごく気にしていたけれど、気にしているとは思われたくない。

だって、ほら。徳の高いお坊さんだから。
「容姿なんか気にせず心の美人をめざしなさい」なんて、凡俗に説教してるでしょ、きっと。

そんな内供の心の内を、弟子は、ちゃんと見抜いていました。
都の高名な医者から、鼻を短くする方法を教わってきてくれたのです。

内供は、しぶしぶを装って、実は、そわそわ、わくわく、試してみました。
長い鼻を、ゆでて、踏んで…… 浮き上がってきた脂を抜いて……
弟子の献身的な協力がなければできないことでした。

信じられないことですが、そんなことで、鼻は短くなったのです。
人なみの、平凡な鼻になって、内供の心は晴れ晴れします。
これでもう、鼻のことでひとにわらわれたり、同情されたりすることはないのだと。

ところが、内供の短くなった鼻を見て、みんなわらうのです。
寺を訪れる人も、下法師や中童子も。
それも、無遠慮に、つけつけと……

なぜだ? みんな、なぜわらう? 
わしが、苦労して鼻を短くしたことが、そんなにおかしいか……
内供の自尊心は、もうズタズタです。

鼻は、結局元に戻ってしまいます。

長い鼻をぶらぶらさせて、
なんだか清々したきもちになって、
「わらいたいやつにはわらわせておけばいいさ、わしは心のイケメンをめざすんだから」と、禅智内供は思ったかどうか。


「鼻」の原話が、「今昔物語」にあるそうなので、探してみました。
福永武彦の現代語訳(ちくま文庫)で。
ありました。「鼻を持ち上げて朝粥を食う話」。
読んでみたら、禅智内供のすごい鼻を、あっけらかんと笑う話でした。


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紅い芥子粒
紅い芥子粒 さん本が好き!1級(書評数:559 件)

読書は、登山のようなものだと思っています。読み終わるまでが上り、考えて感想や書評を書き終えるまでが下り。頂上からどんな景色が見られるか、ワクワクしながら読書という登山を楽しんでいます。

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