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星落秋風五丈原
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NYのフランチェスコ アシスタントになる
 イタリア・アッシジのフランチェスコは、裕福な商家の息子として、享楽的な日々を送っていた。ところがある日神への愛に目覚め、財産の総てを差し出し周囲からは奇行と受け取られる。しかしやがて彼を慕う信者が現れ、聖痕を受け、死後列聖される。

 イエスのたとえ話『放蕩息子の帰還』を地で行くような生涯だ。そんな彼に惹かれるのは、同じイタリア系のフランクだ。
彼は自分の持っているものをみんなやっちまったんだ。金であろうと、着てる物だろうと、なにもかもな。貧しいことを楽しんだのさ。貧乏こそが女王様で、この人はその貧乏を美しい女みたいに愛したのさ
おれはね、この人みたいな人間のことを読むたびに、胸のなかがジーンとして泣きたくなる。抑えるのに一苦労さ。彼は善良に生まれついたんだ―そういうのは、生まれつきの才能っていうもんだな
 但し彼にはフランチェスコのように捨てる家も財産もない。孤児として育ち、社会に出てからもイタリア系移民として蔑まれてきた。清貧を尊ぶフランチェスコを崇めながらも、彼のようには生きられない。明日の糧を得るために仲間に誘われて強盗に押し入る。押し入った先は、ユダヤ人モリスの営むニューヨークの小さな食料品店だ。蔑まれる民族が、更に疎外される民族から搾取する構図になっている。共に手を取り合い、大都会で生きてゆくという美しい光景にはならない。社会の構造がヒエラルキーのトップにいる者にとって都合よくできており、資本主義社会では富をより多く持つ者が成功者として認められる。

 ところがフランクはその流れに抗おうとする。貧しくとも狡猾ではないモリスに好感を抱くのみならず、モリスの娘ヘレンの美しさに、次に勉学に励む彼に本を紹介してくれる優しさに惹かれる。ヘレンもフランクに好意を抱くものの、「親の望む裕福な青年との結婚」「自分が共感できる人との結婚」の狭間で葛藤する。不当な差別に耐えて店をやりくりしているモリスさえも、ふと悪心を抱く。

 登場人物の誰もが葛藤する中で、やはり作者が力を入れたのは、現代のフランチェスコに擬されたフランクだ。タイトルが『アシスタント』になっている版もあるが、その方が作者の意図をよく伝えている。思惑を抱えてやってきた最初のフランクは、アシスタントには程遠い。しかしある時からアシスタントに昇格する。常に褒められた行動をするわけでもない彼の改心はあっけない一行で示されるが、ここも現代に至るまで曖昧なフランチェスコの回心を念頭に置いている。人間とは、矛盾を抱えた存在である。

2009年に英国ガーディアン紙が発表した、「英ガーディアン紙が選ぶ必読小説1000冊」選出。

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    • 小鳥への説教 アッシジのフランチェスコ
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星落秋風五丈原
星落秋風五丈原 さん本が好き!1級(書評数:2327 件)

2005年より書評業。外国人向け情報誌の編集&翻訳、論文添削をしています。生きていく上で大切なことを教えてくれた本、懐かしい思い出と共にある本、これからも様々な本と出会えればと思います。

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この書評へのコメント

  1. ソネアキラ2021-02-01 10:58

    ぼくも旧題の『アシスタント』がしっくりきます。ウォーといいなんでタイトルを変えるんでしょうね。

  2. 星落秋風五丈原2021-02-01 18:42

    ソネアキラさん、こんばんは。そうですね。異なる読者層にアピールしたいのでしょうか。元のタイトルにこめられた意味が伝わらないですね。

  3. No Image

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