書評でつながる読書コミュニティ
  1. ページ目
詳細検索
タイトル
著者
出版社
ISBN
  • ログイン
無料会員登録

紅い芥子粒
レビュアー:
美貌の女形で、絶大な人気を誇った三代目澤村田之助。18歳で脱疽を患い、22歳のとき左足を膝上から切断。義足をつけて舞台に立ち続けたが、病は再発。右足、両手をも切断する。34歳で狂死。
幕末から明治にかけての物語である。

三代目澤村田之助の凄絶な生涯を、田之助の弟子、市川三すじの目を通して描いている。
 
弟子といっても、三すじのほうが、七歳も年長である。
役者の世界は、厳しい身分社会。 
三すじは、吉原で育った父無子で、名門の子の田之助とは、身分がちがった。 
どんなに芸を磨いても、看板に名が載る名題役者にはなれない。 
生涯、稲荷町と呼ばれる下級役者で終わる宿命だった。
 
三すじは、女形として舞台を勤めながら、田之助の美貌と才能に魅入られ、影のように田之助に付き従う。 いわゆる付き人。 
私心を捨てて尽くす三すじに、田之助は、目もくれない。 
役者と付き人の関係は、究極の片思いなのかもしれない。 
しかし、三すじとて役者なのだ。 
同じ役者として、嫉妬もする。 
病魔が田之助の両足だけでなく両手の先まで蝕んだとわかったとき、三すじは、「ざまみろ」という己の心の底の声を聞き、愕然とする。 

物語は、明治になって12年目、三代目澤村田之助が死んだ翌年に雪深い越後路を、三すじが旅しているところから始まっている。 
三すじは、雪空の下に、「澤村田之助」の芝居幟を見つける。
そして、偽者の田之助の清姫を観て、やわらかい涙を流すところで終わっている。
清姫を演じているのは、旅回りの最中に、凍傷で両足指を失くした二十歳ばかりの若い旅役者であった。
 
 
お気に入り度:本の評価ポイント本の評価ポイント本の評価ポイント本の評価ポイント本の評価ポイント
掲載日:
投票する
投票するには、ログインしてください。
紅い芥子粒
紅い芥子粒 さん本が好き!1級(書評数:559 件)

読書は、登山のようなものだと思っています。読み終わるまでが上り、考えて感想や書評を書き終えるまでが下り。頂上からどんな景色が見られるか、ワクワクしながら読書という登山を楽しんでいます。

読んで楽しい:2票
参考になる:33票
共感した:1票
あなたの感想は?
投票するには、ログインしてください。

この書評へのコメント

  1. 星落秋風五丈原2020-09-15 19:30

    紅い芥子粒さんこんばんは。沢村田之助は北村鴻さんの『狂乱廿四孝』にも登場します。

  2. 紅い芥子粒2020-09-15 21:02

    星落秋風五丈原さん、コメントありがとうございます。北村鴻『狂乱廿四孝』ですね。ありがとうございます。ぜひ読んでみたいと思います。

  3. No Image

    コメントするには、ログインしてください。

書評一覧を取得中。。。
  • あなた
  • この書籍の平均
  • この書評

※ログインすると、あなたとこの書評の位置関係がわかります。

『花闇』のカテゴリ

フォローする

話題の書評
最新の献本
ページトップへ