書評でつながる読書コミュニティ
  1. ページ目
詳細検索
タイトル
著者
出版社
ISBN
  • ログイン
無料会員登録

星落秋風五丈原
レビュアー:
三聖人シリーズ完結編
 前回の事件で世の中の犯罪にはもう関わるまいと決めた元内務省調査員ルイ・ケルヴェレールは、ビスマルク伝記の翻訳をしながらも、二週間の間に二人の女性が殺された事件が載っている新聞の見出しが気になって仕方がない。。ヒキガエルのビュフォにできることだけやっていればいいんだよと言いながら、詳細が載っている頁に手を伸ばす。

 連続殺人事件の容疑者と目されるアコーデオン弾きの青年クレマンをよく知っている女性マルトは、親に捨てられた幼い彼に読み書きを教えた過去にほだされ、知り合いのルイを頼る。ルイが頼るのは通称ボロ館の住人である三聖人こと三人の歴史学者マルク、マティアス、リュシアンとマルクの伯父で元刑事のアルマンだ。

 アダムスベルグ警部シリーズで知られるフレッド・ヴァルガス作品には、蘊蓄を語る登場人物が欠かせない。本編の三聖人は、それぞれ専門分野を持つ極めつけの蘊蓄の塊である。そして塊はしばしば暴走し、凡人を呆れさせる。今回も例に漏れず、第一次大戦専門のリュシアンが、興奮した面持ちでネルヴァルの詩を引用して第三の殺人現場を予言する。現実主義者&現場主義者のルイは
人生から何かを学んだらどうだ。君のいかれた戦争や、いかれた詩からだけじゃなく。学ぶんだ。詩を飾り立てるために人を殺すやつなどいない。モミの木にクリスマスの飾りをつけるみたいに、詩に飾りをつけるのに女を殺すやつなどいないんだ!これまでにそんなやつはいなかったし、これからもいない。これは理論なんかじゃない、現実なんだ。人生はそんなものだし、殺人とはそういうものだ。本物の殺人はな!その繊細な頭の中ででっち上げたものとは違って。そして、おれたちが今話しているのは、本物の殺人なんだ。形式美に溺れた装飾なんかじゃないんだよ。

立て板に水!の勢いでリュシアンを論破。だがその翌日、殺人が起きた現場の名前はリュシアンの予言通りだった。さあどうするルイ。

 ヴァルガス作品は会話の妙で読ませる。例えばルイが警察の情報を得る&捜査を誘導するためにロワゼル本部長を利用しようとする件。どうやってこの話を持ち掛けるつもりだと聞かれたルイが
この事件にはなんとなく記憶を刺激されるが、何が気になるのかよくわからない、とか、そんな類のでたらめを言うよ

と言いながら、自分でもいい加減だなと思っていた。しかし実際ロワゼルに会うと、その通りの台詞を言って、まんまと情報を引き出しにかかる。いくら借りがあるからと言って一般人に情報公開しすぎだ本部長。他にもルイが容疑者を匿っているとは夢にも思わないロワゼルが、容疑者と匿っている相手についてあれこれ推理するのをルイがしらーっとした顔で聞いている場面など、俯瞰して作品を見ている読者だけが楽しめるシーンが満載。

フレッド・ヴァルガス作品 アダムスベルグ警視シリーズ
ネプチューンの影
裏返しの男
三聖人シリーズ
論理は右手に
お気に入り度:本の評価ポイント本の評価ポイント本の評価ポイント本の評価ポイント
掲載日:
外部ブログURLが設定されていません
投票する
投票するには、ログインしてください。
星落秋風五丈原
星落秋風五丈原 さん本が好き!1級(書評数:2320 件)

2005年より書評業。外国人向け情報誌の編集&翻訳、論文添削をしています。生きていく上で大切なことを教えてくれた本、懐かしい思い出と共にある本、これからも様々な本と出会えればと思います。

参考になる:25票
共感した:2票
あなたの感想は?
投票するには、ログインしてください。

この書評へのコメント

  1. No Image

    コメントするには、ログインしてください。

書評一覧を取得中。。。
  • あなた
  • この書籍の平均
  • この書評

※ログインすると、あなたとこの書評の位置関係がわかります。

『彼の個人的な運命 (創元推理文庫)』のカテゴリ

フォローする

話題の書評
最新の献本
ページトップへ