mari002さん
レビュアー:
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日露戦争を描いた記録文学の傑作。
昨年、吉村昭氏の「空白の戦記」を読んだ際、塩味ビッテンさんとmistさんから、同じ作家の「ポーツマスの旗」「海の史劇」を薦めていただき、ようやく1冊読むことができた。
この作品は日露戦争の史実をもとに書かれた記録文学だ。勉強不足で日露戦争については無知なため、初めて知ることが多く驚く事ばかりだった。
吉村昭氏の作品は何冊か読んできたが、どれも臨場感のある描写で、まるで見てきたかのように細かく、そして俯瞰して書かれている。記録文学なんていうと堅苦しくて眠くなってしまいそうな印象だが、まるで違う。言い方はアレだが面白いのだ。
まず、ロシアのバルチック艦隊が日本に向かう描写から始まる。なんと日本海に辿り着くまでに7ヶ月!その間に戦況が変わってしまうんじゃなかろうかと心配になるほど長い航海だ。もちろん順調な旅路ではない。途中で何度も石炭や食料の積み込みを行なわなくてはならない。日英同盟を結んでいたイギリスに邪魔され、中立国のフランスにも冷たくされる。また日本軍による水雷艇の夜襲に怯え、赤道近くでは暑さにやられ、ボロボロでやっと日本海に辿り着くのだ。頑張れ!思わずロシアに感情移入してしまう。
日本との戦闘が始まるまで300ページを要する。全体の半分の量だ。このあたりから日本軍の描写も増えてくる。どの方面からロシアがやってくるのか、頭脳戦を展開。ロシア軍のロジェストヴェンスキー提督、対する日本軍の東郷平八郎大将。2人の指導者を魅力的に、しかしどちらかに肩入れするような事はなく書かれている。
戦闘シーンは壮観だ。ドキュメンタリー映像を見ているかのよう。砲撃戦の迫力、陥落する戦艦…。東郷平八郎大将による「敵前大回頭」はハラハラさせられ、息を飲んだ。
日本の大勝利に一瞬胸が躍ってしまった。しかし、傷ついたロジェストヴェンスキー提督にも涙…。両国の心温まるエピソードに、なぜ傷つけあわなくてはいけないのか…と胸が痛んだ。
これで終わりではない。
簡単にいかない講和。決死の覚悟でロシアとの講和条約に臨んだ小村寿太郎外相の苦労とはうらはらに、日本国内で暴動が起こる。講和の条件が甘すぎるというのだ。
また、講和後にロシアの捕虜が帰国するのだが、ロシア国内でも暴動が起きており不安定な状態。船や列車を乗り継いてやっとこさペテルスブルグへ到着。その後、軍法会議が開かれ、ロジェストヴェンスキー提督は無罪放免となったが地位を失う。わびしい生活と怪我の後遺症に苦しみ、帰国後3年で亡くなってしまったそう。
対立して戦った日本とロシアだが、勝っても負けても虚しさだけ。日本はここで勝利したことで欧米と対立が深まり、太平洋戦争に繋がっていったとも言えるわけだし。
ロシアの事がちょっぴり好きになってしまった。やっぱり同じ人間なんだよね。
続いて「ポーツマスの旗」も読みます。
この作品は日露戦争の史実をもとに書かれた記録文学だ。勉強不足で日露戦争については無知なため、初めて知ることが多く驚く事ばかりだった。
吉村昭氏の作品は何冊か読んできたが、どれも臨場感のある描写で、まるで見てきたかのように細かく、そして俯瞰して書かれている。記録文学なんていうと堅苦しくて眠くなってしまいそうな印象だが、まるで違う。言い方はアレだが面白いのだ。
まず、ロシアのバルチック艦隊が日本に向かう描写から始まる。なんと日本海に辿り着くまでに7ヶ月!その間に戦況が変わってしまうんじゃなかろうかと心配になるほど長い航海だ。もちろん順調な旅路ではない。途中で何度も石炭や食料の積み込みを行なわなくてはならない。日英同盟を結んでいたイギリスに邪魔され、中立国のフランスにも冷たくされる。また日本軍による水雷艇の夜襲に怯え、赤道近くでは暑さにやられ、ボロボロでやっと日本海に辿り着くのだ。頑張れ!思わずロシアに感情移入してしまう。
日本との戦闘が始まるまで300ページを要する。全体の半分の量だ。このあたりから日本軍の描写も増えてくる。どの方面からロシアがやってくるのか、頭脳戦を展開。ロシア軍のロジェストヴェンスキー提督、対する日本軍の東郷平八郎大将。2人の指導者を魅力的に、しかしどちらかに肩入れするような事はなく書かれている。
戦闘シーンは壮観だ。ドキュメンタリー映像を見ているかのよう。砲撃戦の迫力、陥落する戦艦…。東郷平八郎大将による「敵前大回頭」はハラハラさせられ、息を飲んだ。
日本の大勝利に一瞬胸が躍ってしまった。しかし、傷ついたロジェストヴェンスキー提督にも涙…。両国の心温まるエピソードに、なぜ傷つけあわなくてはいけないのか…と胸が痛んだ。
これで終わりではない。
簡単にいかない講和。決死の覚悟でロシアとの講和条約に臨んだ小村寿太郎外相の苦労とはうらはらに、日本国内で暴動が起こる。講和の条件が甘すぎるというのだ。
また、講和後にロシアの捕虜が帰国するのだが、ロシア国内でも暴動が起きており不安定な状態。船や列車を乗り継いてやっとこさペテルスブルグへ到着。その後、軍法会議が開かれ、ロジェストヴェンスキー提督は無罪放免となったが地位を失う。わびしい生活と怪我の後遺症に苦しみ、帰国後3年で亡くなってしまったそう。
対立して戦った日本とロシアだが、勝っても負けても虚しさだけ。日本はここで勝利したことで欧米と対立が深まり、太平洋戦争に繋がっていったとも言えるわけだし。
ロシアの事がちょっぴり好きになってしまった。やっぱり同じ人間なんだよね。
続いて「ポーツマスの旗」も読みます。
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仕事が忙しくてあまりログインできてません。
海外SFが好きです。
こちらに参加するようになって、読書の幅が広がりました。
よろしくお願いします!
この書評へのコメント
- hacker2019-08-17 00:39
mari002さん、こんにちは。
この本はレビューは書いていませんが、私も読みました。本書で非常に興味深いのは、バルチック艦隊の乗組員だった人間が書いた『ツシマ』を参考文献としていない点です。ロシア語の文献を嫌ったのか、旧ソ連のプロパガンダと捉えていたせいなのかは分かりませんが、個人的には、日本海海戦をロシア側の将軍や士官ではない一兵卒の視点から語った興味深い本だと思っています。
太平洋戦争でも、『ニミッツの太平洋戦記』を読むと、アメリカ側の視点が理解できて、とても興味深いのですが、日本海海戦も同じだと思います。
良かったら、『ツシマ』の私のレビューを参考としてください。
『ツシマ上』https://www.honzuki.jp/book/70908/review/129391/
『ツシマ下』https://www.honzuki.jp/book/70910/review/129591/クリックすると、GOOD!と言っているユーザーの一覧を表示します。 コメントするには、ログインしてください。
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