hackerさん
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1964年刊の、コネチカット州ストックフォードのフェローズ警察署長シリーズ第八作です。このシリーズでは、第四作『生まれながらの犠牲者』が、『失踪当時の服装は』と並ぶヒラリー・ウォーの代表作でしょう。
「まるきり活気のない町」と本書でも表現されているストックフォードのフェローズ警察署長シリーズは、全部で11作発表されていますが、翻訳されているのは6作にとどまっています。このシリーズは、いかにも警察らしい地道な捜査活動の描写が魅力で、本作でも、それは十分発揮されています。
今回の事件は、町はずれにあるインディアン湖の浜辺で、早朝に若い女性の首を紐でぐるぐる巻きにした絞殺死体が発見されるところから始まります。この地区はリトル・ボヘミアンと呼ばれ、水泳場やダンス・ホールがあることから、夜遅くなると、浜辺ではお愉しみのカップルが多いことでも知られていました。しかも殺された女は、人目を惹く美人で、性交渉のあとがあったことから、情痴がらみの犯行かと最初は思われましたが、被害者の財布や装飾品等の身分が特定できるような持ち物がすべて奪われていること、そしてかっとなった末の情痴殺人なのであれば、手で絞殺するはずなので、どうやら計画的犯行らしいという線に落ち着きます。そして、数日待っても、被害者に該当するような失踪者の届け出がなく、身元確認から難航しますが、新聞に載った顔写真から、一週間ほど前にリトル・ボヘミアンの下宿宿に一人でやって来たエリザベス・ムーア未亡人と名乗る女性だと判明します。ところが、彼女はヘンリーという夫が3か月前に事故死したと下宿の女将に説明していたのですが、該当する名前での事故死の記録はなく、またこの夫婦の名前での婚姻届けも見つからないのでした。
本書は、男性なら振りかえって見るような美人だった被害者は、いったい誰だったのか、どんな女性だったのかを探る捜査の過程が、メグレも連想させますが、一番ウォーらしいです。例えば、彼女が生前使っていたトランクに船で使うラベル跡がついていたので、ニューヨークからの船客名簿から、偽名を使っているかもしれないので、該当する年齢の女性を逐一確認するという作業など、実際には、こういう作業が重要なのだろうなと思わせてくれます。事実、ここから事件の突破口が開けるのですが、結局、ろくでもない男に心底惚れこんだ、普通の家庭を持ち子供を育てることが夢だった大人しい彼女が、散々利用されたあげく、当の相手に殺される末路をたどったことが事件の真相だと分かるのです。ヒラリー・ウォーとすれば、ベストの部類の作品ではありませんが、この被害者像、そして残忍冷酷な犯人像が印象に残ります。
ただ、翻訳に関してやや不満なのは、フェローズ署長の部下ウィルクス部長刑事が、署長を「あんた」呼ばわりしている点で、確かに米語は英語に比べるとぞんざいな印象を受けるのですが、明確な上下関係があるので、ちょっと違うように感じました。あと、邦題ですが、'The Missing Man'という原題の直訳ではあるのですが、これは要するに殺人犯のことですから、「失踪者」というのは通常は誰だか特定されている場合に使われる言葉なので、直訳の邦題にするならば「見つからない男」「行方知れずの男」ぐらいの方が良かったように思います。
今回の事件は、町はずれにあるインディアン湖の浜辺で、早朝に若い女性の首を紐でぐるぐる巻きにした絞殺死体が発見されるところから始まります。この地区はリトル・ボヘミアンと呼ばれ、水泳場やダンス・ホールがあることから、夜遅くなると、浜辺ではお愉しみのカップルが多いことでも知られていました。しかも殺された女は、人目を惹く美人で、性交渉のあとがあったことから、情痴がらみの犯行かと最初は思われましたが、被害者の財布や装飾品等の身分が特定できるような持ち物がすべて奪われていること、そしてかっとなった末の情痴殺人なのであれば、手で絞殺するはずなので、どうやら計画的犯行らしいという線に落ち着きます。そして、数日待っても、被害者に該当するような失踪者の届け出がなく、身元確認から難航しますが、新聞に載った顔写真から、一週間ほど前にリトル・ボヘミアンの下宿宿に一人でやって来たエリザベス・ムーア未亡人と名乗る女性だと判明します。ところが、彼女はヘンリーという夫が3か月前に事故死したと下宿の女将に説明していたのですが、該当する名前での事故死の記録はなく、またこの夫婦の名前での婚姻届けも見つからないのでした。
本書は、男性なら振りかえって見るような美人だった被害者は、いったい誰だったのか、どんな女性だったのかを探る捜査の過程が、メグレも連想させますが、一番ウォーらしいです。例えば、彼女が生前使っていたトランクに船で使うラベル跡がついていたので、ニューヨークからの船客名簿から、偽名を使っているかもしれないので、該当する年齢の女性を逐一確認するという作業など、実際には、こういう作業が重要なのだろうなと思わせてくれます。事実、ここから事件の突破口が開けるのですが、結局、ろくでもない男に心底惚れこんだ、普通の家庭を持ち子供を育てることが夢だった大人しい彼女が、散々利用されたあげく、当の相手に殺される末路をたどったことが事件の真相だと分かるのです。ヒラリー・ウォーとすれば、ベストの部類の作品ではありませんが、この被害者像、そして残忍冷酷な犯人像が印象に残ります。
ただ、翻訳に関してやや不満なのは、フェローズ署長の部下ウィルクス部長刑事が、署長を「あんた」呼ばわりしている点で、確かに米語は英語に比べるとぞんざいな印象を受けるのですが、明確な上下関係があるので、ちょっと違うように感じました。あと、邦題ですが、'The Missing Man'という原題の直訳ではあるのですが、これは要するに殺人犯のことですから、「失踪者」というのは通常は誰だか特定されている場合に使われる言葉なので、直訳の邦題にするならば「見つからない男」「行方知れずの男」ぐらいの方が良かったように思います。
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「本職」は、本というより映画です。
本を読んでいても、映画好きの視点から、内容を見ていることが多いようです。
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- 出版社:早川書房
- ページ数:218
- ISBN:B000JADB6Q
- 発売日:1974年11月17日
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