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風竜胆さん
風竜胆
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車いすの天才、ホーキング博士の語る宇宙論です。
 本書は、車いすの天才と言われて、2018年に亡くなられたホーキング博士の語る宇宙論である。

 語られているのは、相対論、宇宙論、量子力学から弦理論、人間原理までかなり幅広い。内容はかなり難しく、その概念をつかむだけで、初心者にはかなり難しいのではないかと思う。ただ、数式は、アインシュタインの質量とエネルギーの等価式E=mc^2以外は使われていないので、数式アレルギーの人にはいいかもしれない。数式アレルギーは万国共通のようで、以下のように書かれている。

「この本の中に数式を一つ入れるたびに、売れ行きは半減すると教えてくれた人がいる。そこで数式はいっさいいれまい、と決心した。しかし、とうとう一つだけは入れることになってしまった。アインシュタインの有名な式E=mc^2である。この式が私の本の潜在的な読者をおびえさせ、半分に減らさないことを願っている。」(p6)


 ただこの本が単行本で我が国で発売されたのが1989年といまから30年も前である。さすがに少し古い記述も見られる。私の気がついたものを上げると、例えば、次のようなものだ。

「実在重力子は古典物理学者が重力波と呼ぶものだが、波としても非常に弱いものである。- そのために検出が難しく、いまだに観測されていない。」(p109)


 重力波は2015年に観測され、その業績により3人の物理学者がノーベル物理学賞を受賞したことは周知のとおりだ。

「”ブラックホール”という言葉の起源はごく新しい。この言葉は、アメリカの科学者ジョン・ホイーラーが1969年にひねりだしたものである。」(p122)


 実は、ブラックホールという言葉を初めて使ったのは、アン・ユーイングというジャーナリストで1964年のことである。それからジョン・ホイーラーが使い始めたのは1969年ではなく1967年であると「宇宙はなぜブラックホールを作ったのか」(谷口義明:光文社新書)に書かれている。

「マサチューセッツ工科大学のアラン・グースは、初期の宇宙は非常に速い膨張期を持っていたのではないかと唱えた。この膨張は”インフレーション的”であると言われているが、これは宇宙がある時期には、今日のような減速しつつある膨張速度ではなく、早さを増しつつ膨張していたという意味である。」(p183)


 どうしてインフレーションの提唱者として佐藤勝彦さんの名がないんだろう。それに、現在では、宇宙は加速膨張していることが知られている。

 最後に宇宙論と宗教との関係について述べてみよう。1981年ヴァチカンで行われた宇宙論会議に著者が出席したときのことだ。

「会議の終わりに参加者は法王との謁見を許された。法王は、ビッグバン以降の宇宙を研究するのは大いに結構だが、ビッグバンそれ自体は探求してはならない。なぜならそれは創造の瞬間であり、したがって神の御業なのだから、と語った。」(p168)


 なんだか、教会が地動説を唱えた人を迫害したことを思い起こすような発言だ。私は物理学とは「神殺しの学問」だと思っている。これまで神の御業とされたことが単なる自然法則であると解き明かしていく。神が存在するというのは証明のしようがないが、科学の発展により、どんどん神の領域は狭くなっていくのだろう。

 このように今となっては古くなっていることもあるが、宇宙物理学の基本概念を身に着けるにはいいと思う。
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風竜胆
風竜胆 さん本が好き!免許皆伝(書評数:2796 件)

昨年は2月に腎盂炎、6月に全身発疹と散々な1年でした。幸いどちらも、現在は完治しておりますが、皆様も健康にはお気をつけください。

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