ソネアキラさん
レビュアー:
▼
真知子、君はどう生きるのか?

『翔ぶ女たち』小川公代著で取り上げられていた野上弥生子の作品から、まずは『真知子』を読む。
ジェイン・オースティンの『高慢と偏見』を翻案したそうだ。かの作品は「女性にとって結婚は幸福のゴールなのか」「経済力のない女性にとって財のある男性との結婚がすべてなのか」など、今日にも通じるテーマを扱っている。つーことで、泥縄式に『高慢と偏見』を併読中、なう。
曾根真知子は東京大学の社会学部の聴講生。(東京大学に初めて女子学生が入学したのは1946(昭和21)年)官僚だった父親は亡くなっていて、末娘である彼女の結婚が母親の最大の関心事だった。プチ・ブルジョアに属する親戚・友人関係の考え方にも辟易していた。たとえば、彼女が専攻している怪しげな社会学よりもフランス文学を学んだ方が楽しいのではないか。嫁に行くのにも旬があるなどなど。
家柄も人柄も学歴も申し分ない財閥のお坊ちゃま・河井からプロポーズされても心は踊らない。同じ学部の聴講生・米子は、東北の地主の娘。家業が思わしくなくなり、退学することに。再上京した米子は同郷の関の部屋にいた。彼はマルクス主義の活動家。関は北海道の旧制高校で教師をしている真知子の義兄・山瀬の教え子だった。山瀬はかつて真知子の家の書生だった。
京都での裁判に関が出廷したことが新聞に掲載された。それだけで口さがない周囲に、呆れかえる。
何度か偶然の出会いを重ねるうちに彼女の心に関の存在が大きくなっていった。階級闘争などマルキシズムの革命とはどんなものなのか。このまま家にいることはやめようと荷物をまとめ家を出た。関と行動を共にしようと思ったが、やはり、関及びマルキシズムへの違和感は拭えなかった。
なかなか硬派な教養小説(ビルドゥングスロマン)が、率直な読後感。しかし、中産階級の人々を戯画化したペンで今度はマルキシストをやんわりと揶揄している。「智に働けば角が立つ」というが、彼女は角が立ってももいいと思うような女性なのか。
さらに当時の東京や地方の描写も細やかに描いている。昭和初期の東京。活況を呈していた日本橋。書店の丸善や三越本店(店名はあげてないがライオン像から判断)。米子と行った上野の美術館や友人のクラシックのコンサートホールなどを知ることができる。彼女の家は田端。田端文士村で知られる。
真知子は北海道の姉の家から東北の米子の家を訪ねる。跡を継いだ米子の兄。父親の膨大な借財、地元の名士とした何かにつけ相応の額を寄付しなければならない。家計は火の車なのに。いっそ、共産主義国家になればいいとも自虐的に。この部分だけ、チェーホフっぽい。
プチブル・インテリゲンチャのお嬢さん、曽根真知子、自立をめざす。君はどう生きるのか?
『翔ぶ女たち』小川公代著
ジェイン・オースティンの『高慢と偏見』を翻案したそうだ。かの作品は「女性にとって結婚は幸福のゴールなのか」「経済力のない女性にとって財のある男性との結婚がすべてなのか」など、今日にも通じるテーマを扱っている。つーことで、泥縄式に『高慢と偏見』を併読中、なう。
曾根真知子は東京大学の社会学部の聴講生。(東京大学に初めて女子学生が入学したのは1946(昭和21)年)官僚だった父親は亡くなっていて、末娘である彼女の結婚が母親の最大の関心事だった。プチ・ブルジョアに属する親戚・友人関係の考え方にも辟易していた。たとえば、彼女が専攻している怪しげな社会学よりもフランス文学を学んだ方が楽しいのではないか。嫁に行くのにも旬があるなどなど。
家柄も人柄も学歴も申し分ない財閥のお坊ちゃま・河井からプロポーズされても心は踊らない。同じ学部の聴講生・米子は、東北の地主の娘。家業が思わしくなくなり、退学することに。再上京した米子は同郷の関の部屋にいた。彼はマルクス主義の活動家。関は北海道の旧制高校で教師をしている真知子の義兄・山瀬の教え子だった。山瀬はかつて真知子の家の書生だった。
京都での裁判に関が出廷したことが新聞に掲載された。それだけで口さがない周囲に、呆れかえる。
何度か偶然の出会いを重ねるうちに彼女の心に関の存在が大きくなっていった。階級闘争などマルキシズムの革命とはどんなものなのか。このまま家にいることはやめようと荷物をまとめ家を出た。関と行動を共にしようと思ったが、やはり、関及びマルキシズムへの違和感は拭えなかった。
なかなか硬派な教養小説(ビルドゥングスロマン)が、率直な読後感。しかし、中産階級の人々を戯画化したペンで今度はマルキシストをやんわりと揶揄している。「智に働けば角が立つ」というが、彼女は角が立ってももいいと思うような女性なのか。
さらに当時の東京や地方の描写も細やかに描いている。昭和初期の東京。活況を呈していた日本橋。書店の丸善や三越本店(店名はあげてないがライオン像から判断)。米子と行った上野の美術館や友人のクラシックのコンサートホールなどを知ることができる。彼女の家は田端。田端文士村で知られる。
真知子は北海道の姉の家から東北の米子の家を訪ねる。跡を継いだ米子の兄。父親の膨大な借財、地元の名士とした何かにつけ相応の額を寄付しなければならない。家計は火の車なのに。いっそ、共産主義国家になればいいとも自虐的に。この部分だけ、チェーホフっぽい。
プチブル・インテリゲンチャのお嬢さん、曽根真知子、自立をめざす。君はどう生きるのか?
『翔ぶ女たち』小川公代著
掲載日:
外部ブログURLが設定されていません
投票する
投票するには、ログインしてください。
女子柔道選手ではありません。開店休業状態のフリーランスコピーライター。暴飲、暴食、暴読の非暴力主義者。東京ヤクルトスワローズファン。こちらでもささやかに囁いています。
twitter.com/sonenkofu
詩や小説らしきものはこちら。
https://note.mu/sonenkofu
この書評へのコメント
 - コメントするには、ログインしてください。 
書評一覧を取得中。。。
- 出版社:新潮社
- ページ数:355
- ISBN:9784101044019
- 発売日:1973年03月03日
- 価格:489円
- Amazonで買う
- カーリルで図書館の蔵書を調べる
- あなた
- この書籍の平均
- この書評
※ログインすると、あなたとこの書評の位置関係がわかります。





















