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ぽんきち
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1958年、広島を舞台とした、1つの映画が撮影された
タイトルは”Hiroshima mon amour”。日仏合作の映画で、日本での公開時には「二十四時間の情事」とされた。アラン・レネ監督、マルグリット・デュラス脚本。エマニュエル・リヴァと岡田英次が主演を務めたヌーベルバーグである。
フランス人の女が反戦映画の撮影のために、広島を訪れる。女はそこで、日本人技師の男と出会い、恋に落ちる。しかし、2人はどちらも伴侶を持ち、この恋には未来がない。やがて来るだろう別れをほのめかしながら、物語は進む。2人はどちらも戦争で傷を負っている。男は自身は原爆には遭っていないが、家族を失っている。女は戦時中、故郷ヌベールでドイツ兵と恋仲になったが、終戦時に恋人を殺され、自身は剃髪されて辱めを受けた。
モノローグが続くセリフは文学的で美しいが、ある種難解で、なかなか解釈の難しい映画である。記憶と忘却、そのはかなさに呆然とするようでもある。女と男には名前がなく、それぞれヌベールと広島を象徴し、2つの街が受けた痛手を表しているようでもある。だが、特に日本人観客から見ると、女の悲劇は悲劇には違いないが、広島の惨劇に並べるのは、いささかバランスを欠いているようにも思える。

物語の解釈・評価にはさまざまあろうが、この映画で興味深かったのは、58年当時の広島の風景が残されていることと、別の映画『ひろしま』からの映像が挿入されていることである。
レネ監督は当初、ドキュメンタリーの形で映画を撮ろうと考えていたが、最終的には、1人のフランス人女性の物語と広島を重ね合わせる、異色の映画を作り上げた。

本書はこの映画のために来日した、主演女優リヴァが、撮影が始まる前に、広島のあちらこちらを写した写真をまとめたものである。リヴァの写真は、広く知られることもなく、本人の手によってネガが保管されてきた。たまたまそれを知った写真家・港千尋により、50年の時を経て、2008年に発刊された。

バラックも残るが、球場が建設されつつあり、夜の街にはネオンが灯り、復興が進みつつあった様子が捉えられられている。
子供たちの屈託ない笑顔や、和装の花嫁の後ろ姿も印象的である。
50年前にタイムスリップするかのような不思議に吸引力のある写真である。

写真のほかに、レネがデュラスに送った手紙や、映画についての解説や裏話も。
そういえばこの映画、奥田英次のセリフはほぼ全編フランス語なのだが、彼自身はフランス語をまったく話せず、セリフを音で覚え、発音を猛特訓したのだそうである。深い美声なので、吹き替えになるよりその方がよかったのだろう。
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ぽんきち
ぽんきち さん本が好き!免許皆伝(書評数:1826 件)

分子生物学・生化学周辺の実務翻訳をしています。

本の大海を漂流中。
日々是好日。どんな本との出会いも素敵だ。

あちらこちらとつまみ食いの読書ですが、点が線に、線が面になっていくといいなと思っています。

「実感」を求めて読書しているように思います。

赤柴♀(もも)は3代目。
この夏、有精卵からヒヨコ4羽を孵化させました。そろそろ大雛かな。♂x2、♀x2。ニワトリは割と人に懐くものらしいですが、今のところ、懐く気配はありませんw

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