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星落秋風五丈原
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Penny-Feather(1ペニーの羽毛) 吹けば飛ぶよな名前の男が体験する人生の浮き沈み
 聖職者を目指してオックスフォード大学スコーンカレッジに学んでいたポール・ペニフェザーは、穏やかな学生生活二年目を迎えていた。ところが夜の学生達の騒ぎで酔っ払った学生にズボンをびりびりと破かれてしまい、素行不良で退学処分になる。ここで奨学金は自動的に消滅。更に亡き父の遺言で月々の費用はあくまでもポールが学業を続けていた場合のみ支払われる事になっていたため、たちまちのうちに彼は金欠になり、住む場所も失くしてしまう。そんな彼が得た職は、ラナバ城にある私立学校の補助教員だった。卒業していないからとあっさり給金を値切られたのは序の口、一癖も二癖もありそうな教員仲間や学生達にもまれながらも、ポールに幸せをつかむチャンスがやってくるが…。

 原題「Decline and Fall」の通り、少し気の弱い所もあるが基本的には善人な庶民ポールの波乱万丈人生を描く。有力な係累も財産もない彼は理不尽な目に遭う。明らかに自分のではない罪まで着せられているのだから反論なり抵抗なりすればいいのに、ヘンリー6世の「運命の課する所人はそれを忍受せざるを得ない What fates impose, that men must needs abide」を地で行くかのように運命に流されることを選ぶ。要領よく世を渡ってゆくのはそれなりの身分を持った貴族や裕福な人達だ。そして彼等は酷い目にあったポールに対してこんな事を言うのだ。
人間なんて、『人生』って言いながら、全然違う二つのことをさしてんのが分ってないんだなあ。生長とか体の変化みたいな生理学的な意味の実存も、単純に言って、さしうるしね。それは逃げられないよーどうせ、死ぬんだし、だけど、それは不可避なもんだから、人生っていうと、別のほうを考えてしまうわけ―よじ昇って、大騒ぎして、頭ぶつけて、中心に行こうともがくほうね。ところがさ、実際に中心にたどりついてみると、まるでなんにも始まっていないみたいで、ヘンな話。で、おたくはさ、どう見たって席にじっと座っていて、退屈したら、他人を観戦してればいい人だったわけじゃない。なのに、なんだか輪にのっかっちゃって、すぐにまたドッスーンと放り出されちゃった。

ポールが高望みしちゃったのが悪いんだとでも言わんばかり。勧善懲悪信奉者やビルドゥングスロマンファンには全く合わない内容。

2009年に英国ガーディアン紙が発表した、「英ガーディアン紙が選ぶ必読小説1000冊」選出。

イーヴリン・ウォー作品
『ヘレナ』
卑しい肉体 (20世紀イギリス小説個性派セレクション)
イーヴリン・ウォー傑作短篇集 (エクス・リブリス・クラシックス)
回想のブライズヘッド〈上〉
回想のブライズヘッド〈下〉
愛されたもの
『スクープ』
黒いいたずら
つわものども:誉れの剣1 (エクス・リブリス・クラシックス)
士官たちと紳士たち 誉れの剣II (エクス・リブリス・クラシックス)
無条件降伏:誉れの剣Ⅲ (エクス・リブリス・クラシックス)
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星落秋風五丈原
星落秋風五丈原 さん本が好き!1級(書評数:2327 件)

2005年より書評業。外国人向け情報誌の編集&翻訳、論文添削をしています。生きていく上で大切なことを教えてくれた本、懐かしい思い出と共にある本、これからも様々な本と出会えればと思います。

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