四次元の王者さん
レビュアー:
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空襲が激しさを増すなか、東京・両国から田舎に疎開させられた小学生。
著者の自叙伝的作品で、僕の父が著者と同い年、同じ体験をしており、他人事と思えなかった。
「冬の神話」(戦後二十年の昭和四十年出版)の後半部分にストーリーを追加。
平成二十年(戦後六十年)に世に出た本という。
子ども目線で戦争、強制疎開の辛さが描かれるものと思ったら少し外れ。
最終的に著者は東京に戻れたからかもしれないが、戦争の悲惨さが伝わってこないのだ。
実は僕の祖父も同じ時期、大阪の梅田駅前で繊維問屋を営んでいた。
僕が幼い頃、祖母は大阪で歌舞伎をよく見に行ったようなことを話しており、本書で描かれる疎開前の主人公の生活と見事にダブる。
僕の祖父母も、この作品の主人公の家と同じように空襲が激しさを増してくる中、生活の基盤である店舗兼住宅が「建物疎開」により跡形もなく壊された。
当時旧制中学の生徒(早生まれだったのでたぶん、著者より学年が一年上)だった父は、著者同様、祖母の実家に近い富山県に「縁故疎開」し、そのまま居ついた。
これだけ共通点があり、さらに著者が僕の大学の先輩ということで、本書に対する期待は大きかった。
第一部。
学校単位の「集団疎開」で学友たちと埼玉奥地のお寺の境内で過す主人公が描かれる。
ここでの少年に語らせる、戦争認識の不自然さにはちょっとがっかり。
主人公の同級生の早坂くんが大本営発表(事実と異なる過大な戦果報道)の矛盾や、アメリカ軍と日本軍との細かな軍備の差を、情報が少ない疎開先で詳細にさらりと話すシーン、いくら彼が軍事オタクといっても小学生。
戦後、戦果水増しの代表例と言われた「台湾沖航空戦」の戦果には当時の軍部からも疑問が出たらしいが、瀬島龍三がそれを握りつぶしたという。
これに対して、小学生が具体的な数字を挙げて検証できるだろうか。
軍事面の概要は事実だったらしいが、小学生に喋らせるのは失敗だろう。
また同級生が寝食をともにする集団生活のなか、学校と違った力関係で支配する人間、いじめられる人間が出てくる。
そんななか一緒に疎開した、知恵遅れぎりぎりで普通学級に入った「おいも」という少年へのいじめに、主人公が同調する部分は読んでいて不愉快だが、第一部のテーマは「少年たちの環境変化下での集団生活」のようだ。
主人公は「いいとこのボンボンだけど正義感は持ち合わせていない男」のようだ。
第二部。
こっちは第一部のような不自然さはなく、戦時下の「家族」がテーマ。
戦況悪化のなか、主人公一家は家族単位で親戚を頼る「縁故疎開」で新潟県の新井で過ごす。
頼った親戚は町長を務める地元の名士で、広い自宅のなかの十分なスペースを一家に提供する。
ここでは主人公の父母の対照的な様子が描かれる。
富裕な親戚に気兼ねをしながらの生活で、徐々に心が壊れていくお父さん。
そうした環境を跳ね返して気丈に頑張るお母さん。
女は強いのだ!
この部分、僕が幼い頃、祖母から聴かされた疎開話そのもの。
主人公の父が肺をやられて、徴兵の対象から外れたというところも僕の祖父と同じ!
ただ決定的に僕の家と違っていたのが、主人公の母の実家が当時はまだ郊外だった青山にあり、都内に一家の拠り所があったこと。
主人公一家は新井の地で、親戚の家から出て一軒家を借り、主人公のお父さんはそこで農業を営もうとする。
しかし終戦を迎え、お父さんとお母さんの協議の結果、一家はお母さんの実家の青山で厄介になることが、お母さん主導で決定する。
僕の祖父母も終戦直後、大阪に戻るため、かつて店舗を構えていた梅田へ状況視察に行ったという。
ところがそこは見渡す限り焼け野原。
駅周辺には親を亡くした浮浪孤児がたくさん。
祖父母がそこでおにぎりを食べていたら「銀飯だ!」と叫んで周囲に集まって来たやせ衰えた子どもたち。
それで大阪に帰るのを断念したという。
ここが都内にお母さんの実家という落ち着き場所があった主人公(著者)との決定的な違い。
僕の父は、もしかしたら主人公(著者)が進学したかもしれない新潟大学に進学し、たぶん主人公と重なるであろう著者は東京に戻り、早稲田に進学した。
そして書いた本書のタイトルは「東京少年」なのだ。
僕の父(故人)は、生前あまり当時のことは語らなかったが、一時期、新潟大学に通いながらトップの大学を目指して勉強していたことを祖父母から聞いたことがある。
父ももしかしたら「東京少年」になりたかったかもしれない。
戦争は、一つの家族が長年にわたり積み上げてきたものを台無しにするわけで、主人公の生まれた両国に古くから住んでいた人たちのなかには、一族が根絶やしになった人たちもかなりいただろう。
本書で語られる内容は著者の私小説的な部分がほとんどで、その時代、その地域の他の人たち、悲惨な犠牲者にはあまり触れられていないのが、僕には残念だった。
著者はご健在のようなので、僕の大学の大先輩でもあり、可能なら直接あの頃のことを聴いてみたいものだ。
平成二十年(戦後六十年)に世に出た本という。
子ども目線で戦争、強制疎開の辛さが描かれるものと思ったら少し外れ。
最終的に著者は東京に戻れたからかもしれないが、戦争の悲惨さが伝わってこないのだ。
実は僕の祖父も同じ時期、大阪の梅田駅前で繊維問屋を営んでいた。
僕が幼い頃、祖母は大阪で歌舞伎をよく見に行ったようなことを話しており、本書で描かれる疎開前の主人公の生活と見事にダブる。
僕の祖父母も、この作品の主人公の家と同じように空襲が激しさを増してくる中、生活の基盤である店舗兼住宅が「建物疎開」により跡形もなく壊された。
当時旧制中学の生徒(早生まれだったのでたぶん、著者より学年が一年上)だった父は、著者同様、祖母の実家に近い富山県に「縁故疎開」し、そのまま居ついた。
これだけ共通点があり、さらに著者が僕の大学の先輩ということで、本書に対する期待は大きかった。
第一部。
学校単位の「集団疎開」で学友たちと埼玉奥地のお寺の境内で過す主人公が描かれる。
ここでの少年に語らせる、戦争認識の不自然さにはちょっとがっかり。
主人公の同級生の早坂くんが大本営発表(事実と異なる過大な戦果報道)の矛盾や、アメリカ軍と日本軍との細かな軍備の差を、情報が少ない疎開先で詳細にさらりと話すシーン、いくら彼が軍事オタクといっても小学生。
戦後、戦果水増しの代表例と言われた「台湾沖航空戦」の戦果には当時の軍部からも疑問が出たらしいが、瀬島龍三がそれを握りつぶしたという。
これに対して、小学生が具体的な数字を挙げて検証できるだろうか。
軍事面の概要は事実だったらしいが、小学生に喋らせるのは失敗だろう。
また同級生が寝食をともにする集団生活のなか、学校と違った力関係で支配する人間、いじめられる人間が出てくる。
そんななか一緒に疎開した、知恵遅れぎりぎりで普通学級に入った「おいも」という少年へのいじめに、主人公が同調する部分は読んでいて不愉快だが、第一部のテーマは「少年たちの環境変化下での集団生活」のようだ。
主人公は「いいとこのボンボンだけど正義感は持ち合わせていない男」のようだ。
第二部。
こっちは第一部のような不自然さはなく、戦時下の「家族」がテーマ。
戦況悪化のなか、主人公一家は家族単位で親戚を頼る「縁故疎開」で新潟県の新井で過ごす。
頼った親戚は町長を務める地元の名士で、広い自宅のなかの十分なスペースを一家に提供する。
ここでは主人公の父母の対照的な様子が描かれる。
富裕な親戚に気兼ねをしながらの生活で、徐々に心が壊れていくお父さん。
そうした環境を跳ね返して気丈に頑張るお母さん。
女は強いのだ!
この部分、僕が幼い頃、祖母から聴かされた疎開話そのもの。
主人公の父が肺をやられて、徴兵の対象から外れたというところも僕の祖父と同じ!
ただ決定的に僕の家と違っていたのが、主人公の母の実家が当時はまだ郊外だった青山にあり、都内に一家の拠り所があったこと。
主人公一家は新井の地で、親戚の家から出て一軒家を借り、主人公のお父さんはそこで農業を営もうとする。
しかし終戦を迎え、お父さんとお母さんの協議の結果、一家はお母さんの実家の青山で厄介になることが、お母さん主導で決定する。
僕の祖父母も終戦直後、大阪に戻るため、かつて店舗を構えていた梅田へ状況視察に行ったという。
ところがそこは見渡す限り焼け野原。
駅周辺には親を亡くした浮浪孤児がたくさん。
祖父母がそこでおにぎりを食べていたら「銀飯だ!」と叫んで周囲に集まって来たやせ衰えた子どもたち。
それで大阪に帰るのを断念したという。
ここが都内にお母さんの実家という落ち着き場所があった主人公(著者)との決定的な違い。
僕の父は、もしかしたら主人公(著者)が進学したかもしれない新潟大学に進学し、たぶん主人公と重なるであろう著者は東京に戻り、早稲田に進学した。
そして書いた本書のタイトルは「東京少年」なのだ。
僕の父(故人)は、生前あまり当時のことは語らなかったが、一時期、新潟大学に通いながらトップの大学を目指して勉強していたことを祖父母から聞いたことがある。
父ももしかしたら「東京少年」になりたかったかもしれない。
戦争は、一つの家族が長年にわたり積み上げてきたものを台無しにするわけで、主人公の生まれた両国に古くから住んでいた人たちのなかには、一族が根絶やしになった人たちもかなりいただろう。
本書で語られる内容は著者の私小説的な部分がほとんどで、その時代、その地域の他の人たち、悲惨な犠牲者にはあまり触れられていないのが、僕には残念だった。
著者はご健在のようなので、僕の大学の大先輩でもあり、可能なら直接あの頃のことを聴いてみたいものだ。
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仕事、FP活動の合間に本を読んでいます。
できるだけ純文学と経済・社会科学系のものをローテーション組んで読むようにしています(^^;
相場10年、不良債権・不動産10年、資産形成(DC、イデコ)20年と、サラリーマンになりたての頃は思っても見なかったキャリアになってしまいました。
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- 出版社:新潮社
- ページ数:377
- ISBN:9784101158402
- 発売日:2008年07月29日
- 価格:580円
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