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「やりなおし世界文学」の一冊。チャンドラーの代表作ともいえる。
主人公の私立探偵フィリップ・マーロウには気になる人物がいた。顔に傷のある白髪の男性テリー・レノックスである。彼は億万長者ポッターの娘シルヴィアと一度結婚し、別れ、再婚している。シルヴィアは男好きで、自分を放っておいてくれるテリーを便利な夫だと思っていた。テリーは、金に不自由ない生活をしながらも、自己嫌悪を感じていた。マーロウは彼に友人として接する。ある早朝、マーロウのところにテリーが駆け込んでくる。書類は整っているのでメキシコに逃れたいようだ。犯罪者と知って逃亡に手を貸すのは事後従犯になる。マーロウはそんな気がしたが彼をメキシコに送り出す。その後、彼の妻シルヴィアが顔を潰されて惨殺されているのが発見された。更にテリーが妻を殺したという告白書を書いて、自殺した。マーロウは警察、検事局、テリーの戦友メネンデス、そしてテリーの義父ポッターからテリーの件についてこれ以上調査しないように圧力をかけられる。だがメキシコにいたテリーから最後と思われる手紙が届きその内容からすると彼が犯人とは思えない。またテリーのような気の弱い男が妻の顔を潰すような殺し方をする筈がないという思いもあって、マーロウは捜査から手を引く気はない。
そんな中、ロジャー・ウェイドという作家の作品を扱うニュー・ヨークの出版社ハワード・スペンサーからウェイドの保護を頼まれる。彼はベストセラー作家だが、酒浸りで妻に暴力をふるう。スペンサーは恐喝されているのではないか、と勘繰っていてその調査を依頼したいのだという。マーロウはスペンサーの態度が気に食わずこの仕事を断るが、そこにロジャーの妻アイリーンが来て、夫を保護して欲しいと頼み込む。酒を飲まないように始終監視することなど不可能だとマーロウは断るのだが、夫人は後に引かない。取り敢えずウェイドに会いに行くことにした。それをきっかけにウェイド夫妻とは交流のようなものを持つ。だがマーロウは、ある時、テリーの軍歴をきっかけに今迄見落としていた重大な事実に気付いた。
ミステリの分野のハードボイルドの代表作でもある。それ故、クリスティやクイーンなど作品と違ってあからさまな暴力場面もかなりある。しかしミステリとしては、どんでん返しが多い、優れたプロットの作品である。ただ、読者に推理の材料を全部提供するような本格物とは言えない。マーロウの鋭い推理には感心するが、思い付に必然性はあまりないように思う。一見、無関係に見えるふたつの事件が意外なところで結びついているというのはミステリではよく見かける構成ではあるが、それにしてもウェイドの事件に筆を費やし過ぎに感じた。マーロウは教養があり金銭に厳しい人として描写されているが、それに対応した探偵の感慨や個人的思いの描写も少し煩わしく感じた。チャンドラーの作品を初めて読むが、とっかかりとして分厚い小説を読んだせいか、自分には合わない作家かな、と思った。
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