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貧乏のどん底で好きな勉強を続けさせてくれた親への思いを残しておきたいと、2017年に9回にわたって兄弟3人が語り合った記録。

  • レビュアー: さん
  • 本が好き!1級
小澤征爾,兄弟と語る 音楽,人間,ほんとうのこと
小澤征爾の『ボクの音楽武者修行』をはじめ、いろいろな本で彼の人生についてはある程度把握していましたが、さらに具体的に、臨場感を持って知ることができました。

一番印象に残ったのは、父・小澤開作氏、母・さくらさんの「人たらし」ぶり。
征爾氏が生まれた満州でも、日本敗戦を予測して早めに満洲から引き揚げた(といっても妻子を帰した1年後)後も、政府ににらまれて、満州では憲兵が、日本では特高警察が開作氏の見張り役として配置されていた開作氏。
ところが、さくらさんは家族同様にご飯をふるまうなどして、家族のようにつきあい、そのうち満州でも日本でも、担当者が開作氏の思想に逆に感化されてしまい、上司には当たり障りのないことしか報告しなかった、というのです。

征爾氏、みごとにこのお二人の人柄を受け継いでおられますねえ。

また、征爾氏のためにピアノをリヤカーで運んだというエピソードは知っていましたが、
7歳上の長兄、5歳上の次兄が二人で、150キロのピアノをリヤカーに軽々と載せて、横浜の白楽から、東京の立川まで、途中2晩の預け先も確保し、3日かけてのプロジェクトだったとは、初めて知りました。戦争中は勤労動員で90キロの弾薬を一人で運んでいたので、二人で150キロなんて何でもなかった、という発言にもびっくりです。

そのピアノ、対談当時も
「捨てられねえな」とのことで、成城の事務所に保管されていたとか。

作家の井上靖氏に「翻訳なしで感動を人に伝えられる音楽をするなら、日本にこだわらず、外国でやるべきだ」と言われて納得して以来、親しく付き合い、江戸京子さんとの結婚では仲人を依頼。
離婚の際は、開作氏、江戸氏、井上氏の3人で相談をされたのだとか。別れる夫婦それぞれの父と仲人が話し合うなんて、そうはないだろう、と語っていました。

開作氏の
「おれの自由教育が正しかったかどうを証明するのは、おまえたちなんだ」
との言葉に、
「あたりまえじゃないか。必ず証明してみせるよ」と思ったことをよく覚えている、という次兄・俊夫氏の発言もお見事。

征爾氏の音楽体験の原点は、兄弟4人(長兄の克己氏は、この対談時、すでに故人)で賛美歌を合唱したところにあるとのこと。
征爾氏は中学生のときに、讃美歌グループ「城の音」を立ち上げていて、次兄。俊夫氏はこの会の仲間と結婚され、夫人の牧子氏も、対談の一部に参加されています。
音楽の深さとは何か
などというテーマで、家族で話し合えてしまうという関係、さすがです。

29年間(タングルウッド音楽祭だけの時期も入れれば31年間)に及んだ征爾氏のボストン生活の中で、忘れがたい人といえば、チェリストのロストロポーヴィチ(愛称スラヴァ)氏だったとのこと。
アルゲリッチとも親しく、彼女のボーイフレンドは全員把握されているそうです。

人の縁、時代のムードというものも強く感じましたが、何よりも家族同士の信頼感ですねえ。
「うちの中に、なんだかわからないけど、なんとなく、何かを目指すみたいな雰囲気があったと思う」
という家庭をつくりあげたご両親に感服しました。
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  • 掲載日:2026/04/19
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