この作品に登場する探偵は、決して犯人を逃がさない。推理によって追い詰めるだけでなく、抵抗する犯人をあらん限りの暴力をもって捕まえるのだ。”知”を担当する探偵が草津、”暴”を担当する助手が霧島。
その能力は圧倒的だ。草津は助手が持ってきた手掛かりの全てを聞こうともせず、話の途中で真実を見抜いてしまうほどの知能を持っている。霧島は必要とあらば法を犯して現場に乗り込み、爆薬で土砂崩れを起こし、血まみれで殴り合いをする。その暴れっぷりは常軌を逸しており、犯人が可哀そうにすら思えてくる。
二人が追いかけているのは、氷見という幼馴染だ。彼女は昔から草津よりも賢く、霧島よりも強い。そして犯人に協力し、依頼者が逮捕されないよう捜査をかく乱する、恐るべき犯罪者である。本作は氷見が”絶対に”立件できない事件を起こし、草津と霧島が”絶対に”捕えて有罪にするという、いたちごっこの体をなしている。事件の真相を暴いたと思った端から隠蔽が行われる、それが『盾と矛』という作品だ。
推理小説において、探偵と助手の絆を描く作品は多い。ホームズとワトソンのように。また探偵と犯人の関係性が魅力的な作品も多々ある。ホームズとモリアーティのように。本作はそれにくわえて、助手もまた犯人に対して複雑な想いを抱えている。この三者三様の感情が、事件の推理とはまた異なる物語の深みを与えてくれる。
推理小説を読むのであれば、我々読者は当然、事件の解決を望んでいる。しかし本書に限っては、解決してほしいような、さらなるどんでん返しを期待してしまうような、複雑な感情を抱く。なんとも新鮮な読書体験だ。
この本は大きく分けて三つの事件を扱い、全三章からなる中編集である。私が作者なら、こんな面白い形式を思いついたら、シリーズとしてもっと続けられるような終わり方にするだろう。しかし実際の三章はこちらの予想を軽々と越えてくる。機会があればぜひとも自身で読んで、くりかえすどんでん返しに翻弄されてほしい。
この書評へのコメント