米ソの冷戦後、世界は平和へ向かっているはずだったのに、どうしてこんなにも「力による支配」や「力による越境行為」が増えてるのだろうと思い、この本を手にしました。
ロシアがウクライナへ侵攻し始めた時、確かに酷い話だけど、どうせすぐに終わるだろうと思った人は多いと思います。でも、まだ終わらないし、いつ終わるかもわかりません。中国は国内の「一国二制度」をやめ、周辺国への圧力を強める一方、アフリカへの投資が進んでいます。アメリカはイランへ攻撃を始め、ホルムズ海峡を巡る話し合いは、少しも進みません。みんな、世界の平和なんか考えていません。自国の利益のことしか考えていません。
この本を読んで、始めて理解できたのが「白人の焦燥」という点です。
1960年代半ばまでアメリカは「白人の国」でした。1956年、全人口に占める白人の割合は89%でした。「移民の国」とは言うものの、その大多数が「ヨーロッパ系移民(白人)」だったのです。
最近の統計によると、アメリカは3億4000万余りの人口のうち、中南米系を除くヨーロッパ系白人が57.8%。中南米系20%弱で、黒人12%余り、アジア系約6%という比率。白人はまだ社会の多数派です。しかし2060年には44%程度にまで落ち込むと予測されています。人種的少数派だった非白人の移民が過半数を占めるのです。
ここに危機感を持つ白人たちを上手く操っているのがトランプ政権です。「移民は入れるな」「アメリカで生まれても国籍は与えるな」「アメリカ・ファースト」、現在アメリカに住む人の既得権を守れというスローガンは、多くの人に受け入れられたのです。
ロシアの戦略として考えられている「難民を武器化」というのが実に怖いです。
ウクライナを攻撃することで大量の難民が生まれ、ヨーロッパ各地へ流れ込む。ヨーロッパの人たちは人道的に彼らを受け入れます。しかし、それによって労働問題や経済問題など、さまざまな問題が生まれ、それを良しとしない勢力が現れます。つまり「難民危機は民主主義の弱点を突き、ヨーロッパを攪乱し、プーチンに有利に働く」というのです。
これも、自国民の既得権を揺るがすものを排除せよという心理をあおるものです。理屈では「弱者を助けるのは正義」ですが、それが自分たちの生活を脅かすものかもしれないと思ったら、拒否反応が生まれても不思議ではありません。
プロローグ 「警察官」の退却
第1章 覇者の驕り―「無敵」から「Gゼロ」へ
第2章 「格差」の超大国―アメリカを蝕む病
第3章 リバンチズムー「大ロシア」再興の野望
第4章 百年国恥 ー中華民族の偉大な復興
第5章 「南」の逆襲ーBRICSの論理と心理
第6章 白人の焦燥ー「人種置換」の世界観
第7章 SNSと情報工作ー民主主義の新たな脅威
第8章 「警察官」の犯罪―時代遅れの戦後秩序
第9章 逆流する歴史―よみがえる伝統主義
エピローグ 「19世紀」へ向かう歴史
大国のエゴとか、民主主義の限界とか、これから世界はガラガラと崩れていくのでしょうか。いつだったかタモリが言っていた「新しい戦前」という言葉が真実味を帯びてきたような気がします。
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