書誌情報や解説を読むと、本著は社会的影響の大きかった話題作で、裁判沙汰になった結果がよい意味で影響して、名作として現代まで残っているという稀有な一冊です。
フローベールは小学生の頃から試作的に文章を書き始めた人です。書かないといられない、小説家気質のタイプだったようです。きっかけは二十八才の時です。古くからの友人のデュ・カンと、生涯の友人となる詩人のルイ・ブイユを自宅に招待し、ようやく完成した聖アントワーヌの誘惑を読み聞かせ、二人に意見を求めたのでした。友人たちからは手厳しい批判。フローベールは、友人たちの判断を尊重すると答えました。
そして一睡もせずに迎えた翌朝、ふいにブイユが言いました。なぜ君はドロネーの話を書かないんだと。ドロネーは、フローベールの父の教え子で、免許医でした。最初に金持ちのような年上の女性と結婚した後、その女性に先立たれ、あまり裕福ではない娘と再婚しました。そして始まった墜落人生は、本作のボヴァリー夫人の話そのままだったようです。
本作は、不倫で身を持ち崩し、家族崩壊に至った物語です。いまでこそそういう作品は珍しくありませんが、当時の衝撃はすさまじいものがあったようです。小説なのに、公衆道徳および宗教道徳、良俗に対する罪で訴えられてしまいました。小説がですよ? それくらい、当時の社会に与えた影響は甚大だったというわけです。
新訳のおかげで、抜群に面白く読めました。究極のかまってちゃんのボヴァリー夫人は、究極の承認欲求の持ち主だし、究極のナルシストでもあります。そんな人間の恥部をあますところなく書き上げた本作は、現代でも通じる普遍性があると思いました。
大衆小説なのに名作という、面白い立ち位置です。一読の価値がありますよ。
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