海鳴り遠くに 風は西から パスピエ 赤くて冷たいゼリーのように 天鵞絨のパライゾ 雪が踊っている
6編収録の短編集。
「一筋縄ではいかない、珠玉の恋愛小説集」とあったのですが、そう。ちょっと問題があったり、ちょっと考えてしまうような。でもごく身近におこり得る普通の恋愛ともいえる。
このひとつ前の美澄さんの作品は読んでも読んでも息苦しくて、結局何も文章に残せなかった。
あまりにも身近に、すぐ近くで起きていそうな話で、それが長編だと変に感情が深入りしてしまうのか…どうにもだめだった。
で、こちらは短篇集だったのでめげずに手に取りましたが…いい!!
今の私はこちらだったようです。
こちらもとても身近にいそうな人ばかり登場する。
・夫を亡くし別荘に引きこもる38歳の女性。
・高2で初めて女性から告白され舞い上がっていたらあっけなくフラれ、以降登校する気力が起こらなくなった男の子。
・よく行く居酒屋のバイト女性に困っていると懐かれ、家にあげ匿っているつもりだったサラリーマン。
・退職後、私立高校で清掃の仕事をする一人暮らし66歳男性。
・仕事一筋で生きてきた堅実な26歳女性。資産家のYと出会い結婚する。
・小3の子育てに苦戦する39歳の母。息子が塾で喧嘩した相手の父親はかつて苦い思いを味わった相手。
6編の主人公たちは誰もが感情移入しやすく、「わかるなぁ」という思いを抱いてしまう。
彼らの悩みはちょっとうっかり人に言えない、でもとても深刻。
ひとつだけ『風は西から』をピックアップ。
今まで大好きだったわけでもないのに、告白されその気になりつつあると突然「わからなくなっちゃった」と告げられ、同じなのか、いやそれ以上なのではないか??大混乱する男子高校生。
母子家庭で育ちばぁちゃんの口癖だった「禍福は糾える縄の如し」という言葉がいつも浮かぶ陸。
この言葉をよく使った向田邦子のことも知っていて、自分の好調と低調をその言葉を思う事で判断する。
それまで大きな問題もなく送ってきた日常が、ふと飛び込んできた相手によって気分を変えられ、さらに気落ちし動けなくなった。
相手が悪人なわけでもないというのがまた難儀なところで、要するに気持ちの持って行き方がわからなくなり動けなくなった。
少年よ、どうぞまた前を向いて歩いて欲しい!!と願う。
うまくいかない事ばかりだけれど、読後感がいい。
どこか希望を感じさせる短編集。
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