「単位」にかかわる本を、いくつかまとめて見たことがある。実はこれが意外に沢山ある。現在の基本的な仕組みであるSI単位の解説から、その古今東西の壮大な単位の歴史を垣間見せてくれる本、さまざまな話題をつまみぐいした雑学本まで、色々である。研究者の書いたものは、自分の専門に引き寄せやすいようだ。これに、「測る」「測定」という部分まで広げると、もっと沢山になるだろう。
今まで私自身があまり気がつかなかったのは、図書館や書店では、「物理」の棚に置かれたり、「機械」の棚に置かれたり、と置き場所がばらばらであったからではないだろうか。精密科学としての物理学に資するべく厳密さを深めていった側面もあり、そのための計器の発達をみれば確かに機械分野にもなる。科学全般に関わるようでいて意外に注目の度合いが今ひとつなのは、「縁の下の力持ち」扱いだからかもしれない。
そんな数多くの「単位」本のなかで、科学としての側面を理解するのに、手っ取り早いのが、この「図解雑学」シリーズの本書である。刊行されて時も経ち、絶版扱いの本のようだが、もし見つけたら迷わずに入手されたい。著者は、他にも単位の歴史・技術史的な側面の著作も多く、小泉袈裟夫氏とならび、この世界では第一人者といえる。
本書では、技術史的な蘊蓄は最小限にしたうえで、なぜ単位が必要なのか、なぜ単位がSI単位に収斂させる必要があったのか、単位の相互の関係性はどのようになっているのか、などなど「単位の仕組み」についての基本を丁寧に解説している。その構成と内容は「理科の単位」をきちんと反映している。
通例、単位と言えば「度量衡」が中心であるが、理科ではこれに「運動と力」「電気磁気」が必要となることを、明快に構成の上で示してくれている(ただし、著者自身も認めるように、モルなど「化学系」の記述はやや弱い)。本書を手にしていて思い出したのは、高校の理科の講義を受けていて、その扱うスケールが自分の日常から一気に離れていったことである。だからこそ、こうした単位の理解が科学の習得には必要になってくる訳である。今さらながら気がついた。
多くの一般読者を対象に、わかりやすさを考慮して、見開きでの解説と図解を多用してくれている。ここでの図解がすべてうまくいっているかどうかは、私の力量では判断できない。限られた紙面の中で押し込んでいるようなところも散見され、「図解雑学」シリーズとしては、ちょっと難しくなっている部分もあろうかと。けれども、関連する単位の関係を「SIマップ」としてまとめるあたり、なかなかのアイディアと感じた。たいていの辞書や教科書では、「換算表」で済ませているところであろう。
著者の本領である歴史記述は1章分のみだが、単位の基準が「自然物」と「人工物」とのあいだの揺れ動きで端的に記述するあたり、見通しのよい整理をしてくれる。他書の引き写しのような本では単なる「雑学」になるところを、該博な知識を十分にもった著者が書くと、歴史もきちんとした「しくみ」の記述になる好例と感じた。もちろん、ファンサービスも忘れておらず、ケプラーの作った標準器の紹介と同時に、ほぼ同じ発想のものとして中国の漢嘉量を並べて示したりもする。
なお、著者の基本姿勢はSI単位重視であり、「追放されるべき単位」まで立項されている。著者の経歴をみれば、当然の姿勢であろうし、この批判もポンドヤード法を捨てない「アングロサクソン批判」といってよいだろう。実際には厳密に整理された単位系だけで生活できる人はいないだろう。廃止されたとはいえ、今でも使い慣れた単位を使う人は少なくない。それぞれの分野の慣習や制度のみならず、スケール感覚からいっても、「手頃な単位」の存在理由はなくならない。だからこそ、まだまだ単位本が生まれる余地がある訳でもある。
さて、このあたりのバランスをうまく保っている異色作が、アシモフの『宇宙の測り方』(河出書房)である。さまざまなエピソードを洒脱に紹介しつつ、長さ・広さ・体積・質量・密度・圧力・時間・速度・温度といった基本的な構成の中に盛り込んでいる。さらにそれぞれが大小のスケールに分けてエピソードがまとめられている、スケール感覚も追体験できるしかけになっている。これも刊行から時間が経ち、すでに絶版扱いのようだ。文庫化をぜひ希望したい。
*初出:bk1 2012年3月12日
・再掲載にあたり、いくつか文言の修正や改行などを行いました。
旧見出し:まずは何より関係者の高く努力を評価したい。
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