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異星の痕跡だけが残された“ゾーン”で、人は何を願い、何を見出そうとするのか。静かな衝撃を残すファーストコンタクトSFの傑作

ストーカー (ハヤカワ文庫SF)【Kindle】
ファーストコンタクト。それは、異なる文明や種族との初めての遭遇を指す。SF小説ではひとつのジャンルとして確立していて、スタニスワフ・レム「ソラリス」やアーサー・C・クラーク「幼年期の終り」、テッド・チャン「あなたの人生の物語」、劉慈欣「三体」など代表的な作品をあげればキリがない。

本書「ストーカー」もファーストコンタクトSFの代表的な作品である。しかも、パッと思い浮かぶタイプの異星人との出会いがあり、そこから異なる文明間の対話や戦争に発展したりするようなファーストコンタクトSFとは少し毛色が違う。

「ストーカー」では、異星人は登場しない。作中では“ゾーン”と呼ばれる立入禁止の区域があり、そこにはかつて異星人は“来たらしい”という痕跡がある。ゾーンには、なにやら地球上のものではない物質が残されている形跡があり、極めて危険な場所となっているという設定で物語は進行していく。

そのため、本作では異星人と地球人は直接接触することはない。地球上のいくつかの地点にあるゾーンの存在だけが異世界人との接点であり、人間は、ゾーンに残された痕跡や事象を研究することで異星文明にアプローチする。その一方でゾーンに不法侵入し、そこから“ブツ”を命がけで持ち出して売りさばく連中も現れる。そうした連中を指すのがタイトルにある“ストーカー”だ。主人公レドリック・シュハルトは、そのストーカーの一人である。

この舞台設定が面白い。人類にとってゾーンは、宝の山かもしれないし、世界を破滅させるような危険のある場所かもしれない。解明できない謎に満ち溢れているからこそ、人類はゾーンの存在やゾーンに残されたものに何かしらの意味を見出そうとしてあがく。人類が懸命にアプローチする姿と謎だけが残されたゾーンの対比がシリアスでもあり、滑稽でもあるというのが本書の肝になっていると思う。

「ストーカー」という邦題は、主人公の稼業からとられているが、ロシア語の原題は直訳すると「路傍のピクニック」や「道端のキャンプ」といった意味になる。物語の中盤、〈ボルジチ〉という酒場で 登場人物のひとりリチャード・H・ヌーナンが、ワレンチン・ピルマン博士と異星人の来訪とゾーンについて会話する場面がある。ふたりの会話が進む中で、ヌーナンはピルマンに来訪についてどう考えているのかと問う。それに対してピルマンは、ピクニックのことを考えてみろと答える。
「ピクニックのことを考えてみたまえ⋯⋯」
ヌーナンは身震いをした。
「なにが言いたいんですか?」
「ピクニックだよ。こんなふうに想像してみたまえ--森、田舎道、草っぱら。車が田舎道から草っぱらへ走り下りる。車から若い男女が降りてきて、酒瓶や食料の入った籠、トランジスタラジオ、カメラを車からおろす⋯⋯テントが張られ、キャンプファイアが赤々と燃え、音楽が流れる。だが朝がくると去っていく。一晩中まんじりともせず恐怖で戦きながら目の前で起こっていることを眺めていた獣や鳥や昆虫たちが隠れ家から這いだしてくる。で、そこで何を見るだろう? 草の上にオイルが溜まり、ガソリンがこぼれている。役に立たなくなった点火プラグやオイルフィルタが放り投げてある。切れた電球やぼろ布、だれかが失くしたモンキーレンチが転がっている。タイヤの跡には、どことも知れない沼でくっつけてきた泥が残っている⋯⋯そう、きみにも覚えがあるだろう、りんごの芯、キャンディの包み紙、罐詰の空罐、空の瓶、だれかのハンカチ、ペンナイフ、引き裂いた古新聞、小銭、別の原っぱから摘んできた、しおれた花⋯⋯」
「わかりますよ。道端のキャンプですね」
「まさにそのとおりだ。どこか宇宙の道端でやるキャンプ、路傍のピクニックというわけだ。きみは、連中が戻ってくるかどうか知りたがっている」

人間が田舎の道端で好き勝手にピクニックをして、ゴミやガラクタを散らかして去っていく。人間たちが去った後、森の動物たちは恐る恐る姿を現し、その場に残されたものを見つける。興味本位で触ってみたりもするだろう。その中には、毒や危険物があるかもしれない。命を失うこともあるかもしれない。ゾーンとは、異星人にとってはたまたま寄って、遊んで、散らかしていっただけの場所かもしれない。ならば、彼らがゾーンに残した足跡に人類を導くなにかがあると考える意味はあるのだろうか。

ピルマン博士の例え話には、背筋がゾッとするような説得力がある。人間たちがどれだけ叡智を結集して必死に意味をこねくり回したところで、相手からしたら何も意図なんてないかもしれないという結論は、あまりに残酷だと感じる。

派手なアクションや華やかに盛り上がるようなスペクタクルで痛快さを演出するタイプの小説ではない。ゾーンと隣り合わせの町で営まれる人々の日常、危険な仕事に従事する仲間の死といったものの積み重ねで読ませる小説だ。得体のしれない異星人の遺物に対して、どうにかして意味や希望を見出そうとする人間の愚かさを描くことで、世界の異様さがあらわになり、不穏さと後味の重さが読後に残る。読み終わってからじわじわと胸に響いてくる作品であった。
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  • 掲載日:2026/04/17
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