オリンピックで勝つためにドーピングを行うというストーリーであるが、雫井脩介の「栄光一途」にも柔道界を舞台にしている似たストーリーがあり、スポーツミステリーとしては魅力ある設定なのでしょうね。本書の主人公は50キロの距離をスキーで駆けるクロスカントリースキーの選手。堂場瞬一はこれまたマイナーな競技を選んだものですね。そもそも個人のスピードレース、マラソンや競泳、スケート、スキーなどは団体スポーツである多くの球技、野球やバスケ、バレーなどに比べて登場人物が少なく、チームプレーとしての綾がない分盛り上がるドラマが作りにくいと思われます。同じスキーでもアルペンやジャンプならば日本人にとって馴染みが多少ともあろうものを、よりによってクロスカントリースキーとは・・・、私は見たこともないしルールもよく知りません。従って少なくとも日本人にとってはなじみがないというだけでハードルが高い設定になっています。
しかしスポーツ小説の雄・堂場はこれらの困難を払拭すべくいろいろ工夫を加えてストーリーを盛り上げていくのです。まず主人公がスポーツ記者で同郷の幼馴染がオリンピック選手・竜神正人という設定がうまい。竜神はオリンピック2大会連続金メダルという偉業を果たした後に引退して実家のペンションで働いていました。ところが彼が復活すると聞いた、スポーツ新聞記者の杉本直樹が取材を始めるのですが、竜神は現役復帰の理由について語りません。こうして前半は杉本の取材という体裁をとりながら竜神の環境や過去の栄光そして彼の性格を浮き彫りにします。そして中盤から竜神がドーピングに手を染めているのではないかという不穏な噂をからめ、その真偽がと復活の理由が謎としてスポーツミステリの要素を盛り上げるのです。
あくまでも善人、聖人であり国民のヒーローである金メダリストの裏の貌とは・・・がドーピングの是非を絡めて提示されるのです。クロスカントリースキーに興味を抱かせるという副次効果をも抱かせる好著です。
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