暑すぎた今年の夏にしんみりとした恐怖を届けてくれたのが、この本。
お化け屋敷での絶叫とか、心霊動画のどこか笑える怖さとかとは、少し違う。闇夜と形容するにふさわしい夜の中で、ポツンと灯りが見えてくるような感じです。
でもその灯りにすがりつくと、スッとかわされてじわっと怖さが押し寄せてくる。
佐藤春夫の「幽香嬰女伝」は息子の縁談が決まった頃、若い女の影が廊下や寝室に現れ出した話。よくよく考えてみれば生まれてすぐに亡くなった娘の霊で、兄の縁談を祝福するために出てきたのだろうと、作者は結論付けてます。
なんとも哀れで、じいんとしました。
三浦朱門と遠藤周作が同時に体験した熱海の旅館での恐怖は、ほんとにゾッとします。
「俺はここで首を吊った」と霊が囁く場面は、想像出来るから怖いです。
柴田練三郎の「黄色いマフラー」は鮮やかなミステリめいていて、怖いと言うよりスカッとします。
この本の中で一番私が怖かったのは大高興の話。弘前市の宿泊場所に現れた幽霊は、作者のスケッチが載ってるのですが、これがほんとに怖い。
子供の頃に読んだ幽霊の本にあったのですが、いまだに覚えているぐらいインパクトが強いものです。それにまた会えるとは……
心霊動画の比ではありません。
ラストの稲川淳二の「生き人形」は有名な話。語り口調が聞こえてくるようです。
しんみり、ざわざわ、ぞおお、さまざまな怖さがセットになっています。
選者のセンスが光ってます。
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