ジェフリー・アーチャーの『ロスノフスキ家の娘』は、前作『ケインとアベル』から続く宿命の対決を受け継ぎながら、一人の女性が自らの知性と意志で運命を切り拓き、ついにはアメリカ大統領の座へと上り詰める姿を描いた壮大な物語です。
【あらすじ】 宿命を超えて進む「娘」の物語
主人公フロレンティナ・ロスノフスキは、ポーランド移民からホテル王へと成り上がったアベル・ロスノフスキの愛娘。天賦の才を持つ彼女は、父の宿敵ケイン家の息子リチャードと激しい恋に落ちる。両家の猛反対を受け、父から勘当されながらも、二人は親の資産に頼らず高級ブティックを立ち上げ、自らの力で成功を掴む。
その後、父との和解と別れを経験したフロレンティナは、幼い頃から抱いてきた「アメリカ初の女性大統領」という夢を実現すべく政界へ進出。卑劣な政治的陰謀や最愛の夫との死別といった過酷な試練を乗り越え、ホワイトハウスの頂点へと歩みを進めていく。
■ 魂を揺さぶる名場面
本作の大きな魅力は、親の威光を捨て、一文無しからビジネスを軌道に乗せる二人の「自立」のプロセスにある。また、前作の読者を深く揺さぶるのが、父アベルとの和解の場面だ。ケイン家への憎しみに囚われ続けたアベルが、死の間際に孫たちと対面し、遺言によって長きにわたる復讐劇に終止符を打つシーンは、感動的だ。
さらに後半の政治劇では、上院議員選挙における逆転劇が圧巻。息もつかせぬサスペンスの中で、フロレンティナが苛烈な政治闘争を生き抜く「闘士」であることが鮮烈に描かれている。
■ 人生の羅針盤~家庭教師ミス・プレストの教え
フロレンティナを大統領へと導いた最大の功労者が、幼少期の家庭教師ミス・プレストである。女性の政界進出が困難だった時代に、彼女は「あなたにはアメリカ初の女性大統領になる素質がある」と励まし続け、フロレンティナの胸に野心の火を灯した。
徹底したリベラル・アーツ教育で幅広い教養を授け、「特権には義務が伴う(ノブレス・オブリージュ)」という高潔な倫理観を植え付けたのもミス・プレストである。
その教えがあったからこそ、フロレンティナは勘当されても挫けず、自らの力でビジネスを成功させ、常に民衆のための政治を志すことができた。彼女にとってミス・プレストは、まさに精神的支柱そのものだった。
【総評】夢を現実にする不屈の精神
物語のラスト、フロレンティナは「現職大統領の急死」により、副大統領から大統領へと昇格する。一見すると偶然のように見えるが、その瞬間に彼女がホワイトハウスに立っていたのは、ミス・プレストの教えを胸に、自らの足で血を流しながら歩んできた結果である。
亡き夫の写真を抱きしめながら宣誓を行う姿は崇高であり、因縁を乗り越え、愛を貫き、限界に挑み続けた一人の女性の生き様は、「運命は自ら掴み取るものだ」という強烈なメッセージを読者に投げかけている。
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