1958年モスクワで開催された第1回チャイコフスキー国際コンクールの結果を発表されるところで物語が始まる。ソ連ピアニストの優勝が噂されていたが、アメリカの青年が覇者となった。第2位のナディア・ガガリロフも絶賛し、晩餐会の席でも話す機会を得られたが、音楽の話をしながらも名門ガガリロフ家をプロパガンダに利用しているなど、党批判ともとれる発言や亡命といった話題に敏感に反応した政府関係者の存在があった。
時代が流れ2010年のショパンコンクールで5位入賞を果たしたヴァレリー・ガガリロフは2015年からモスクワ音楽院の客員教授に招聘された。教え子のロシア人とウクライナ人生徒のトラブルに頭を悩ませるヴァレリーだったが、ショパンコンクールでグランプリを争った仲である岬洋介がロシアでツアーを予定しているという情報を得た。無理を承知でモスクワ音楽院での演奏会を依頼し、岬は快諾した。しかし、ロシア大統領と親しい音楽院のボリス学部長の猛反対にあう。そのボリス学部長が密室状態の宿舎で殺害された。犯人はいったい誰なのか。
ロシアの情勢が音楽の世界にも影響を及ぼし、生徒たちの関係もギクシャクし若い音楽家たちの芽を摘んでしまうかのような状況を想像すると胸が痛む。さらにニュースではロシア兵士たちは囚人たちということにも驚かされる。岬洋介の素晴らしい演奏会が音楽院で行われ、その描写にうっとりしていたところに岬洋介が犯人を言い当てる。岬洋介とヴァレリーの関係、ガガリロフ家について明かされる真実に加え、まさかの犯人そして、結末にショックを受けつつ、「そうだった、中山七里さんはどんでん返しの作家だった!」と気がついた。ウクライナに平和が訪れて、ロシアが撤退することを心から願う作品だった。
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