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ゆうちゃん
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右手の甲に赤い輪が浮き出る特異な遺伝的体質を持つ一族。ジムとその息子ボブが死んで、この一族は根絶やしになった筈だった。ところが、この体質を研究しているレイマー博士の前に赤い輪の婦人が現れた。
一年くらい前にルブランのルパン・シリーズを読み終えた。それ以前にも「ルパン外伝」と呼ばれたものを読み切った積りだったが、本棚にはまだルブランの作品が4冊残っていた。この際、全部読んでしまおうと手にした一冊目の本が本書である。

何等かの理由で感情が高まると赤い輪が右手の甲に浮き出るという特異な体質を持つ一族の話。最初の赤い輪の一族は収監されていたジム・バーデンだった。彼は犯罪者というより病人だったが、赤い輪が浮き出ると恐ろしい力を発揮する。彼はこれが遺伝性であることを知っていて、息子のボブを慎重に育てたのだが、ボブは悪い道に走ってしまった。この身体的特性に注目し研究していたのが、法医学が専門のレイマー博士だった。ジムは釈放されたが、慈善活動をする若い女性フロレンス・トラビスの施しも邪険にし、町に出てしまう。レイマーはジムとボブを監視していたが、ジムは悪事に手を染めさせる自分の赤い輪の特性に絶望し、またそれが遺伝しているであろう、ボブの将来を悲観して、レイマーの目の前でボブを殺し、自殺してしまう。これで赤い輪を持つ一族は根絶やしになった筈だった。
ところが、ジムの死から間もなく、レイマーは右手の甲に赤い輪がある若くて上品な女性の手が車から出ているのを見つけてしまった。車は走り去ったのでその手の持主はわからない。間もなく高利貸しのバウマンの家で借用証書が盗まれる事件が起きた。盗んだのは黒いベールの女で大胆にもバウマンと約束があると言ってバウマンの部屋に入って隠れ、バウマンが借用証書を取り出したところで彼を金庫に閉じ込めて逃走したのだった。バウマンの証言から赤い輪の女が犯人だとわかる。その後、別荘地サーフトンでは偉大な化学者の父の発明図面を外国のスパイに売り渡そうとしたテッド・ドリュが、やはり赤い輪の婦人によって図面の入った鞄を盗まれたし、顧問弁護士ゴードンを騙して偽の領収書に署名させ、ゴードンを横領罪で告訴したその雇用主サイラス・ファウェルの事務所からも、その領収書が盗まれた。そこにも赤い輪の婦人がいた。
不思議なのはこれらの事件の現場か現場近くにフロレンス・トラビスが出没している点である。レイマーはフロレンスとこれらの事件を通じて親しくなっていったが同時に彼女にも惹かれて行った。フロレンスも同じくレイマーに惹かれていく。果たして彼女は赤い輪の婦人なのだろうか?もしそうだとして、なぜ彼女がジムの遺伝を受け継いでいるのだろうか?

この長編は赤い輪の婦人を巡る謎を中心に、ジム・バーデンを知る悪党の一味サム・スマイリングとクララ・スキナーが企む宝石泥棒の事件、サイラスが父の事業に貢献した従業員への配当を横領し、その罪をゴードンに擦り付ける事件と三つの大きな事件を軸に展開する。これらの事件が都合よく重なるのは、ルパンものに見られるルブランのお家芸だし、突っ込みどころも満載だが、そういうものだと理解して読めばそれほど興ざめにならない。また、悪党サムの隠れ家にある隠し部屋などもルブランのお得意の描写である。
ルブランには説明できない事象を扱った作品(例えば「三つの目」「ノー・マンズ・ランド」)があるが、この赤い輪もそう言った類である。レイマーは赤い輪の現象を医学的に意識の力の及ばない自律性の神経現象のように説明しているが、そこに科学的正確性はない。
しかし、フロレンスの活躍は胸のすくものであるし、彼女が赤い輪を善に活用するところは共感できる。レイマーは法医学者であって探偵ではなく、本人も小説中でそう語っているが、実際には探偵である。そうしたことからか、訳者はレイマーをルパンに例えているが、それにしてはレイマーがあまりに常識人である。むしろフロレンスは上流階級に蘇った「綱渡りのドロテ」のヒロイン・ドロテではないかと思う。こちらの女性キャラクターの方が作品の中では光っている。
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ゆうちゃん
ゆうちゃん さん本が好き!1級(書評数:1742 件)

神奈川県に住むサラリーマン(技術者)でしたが24年2月に会社を退職して今は無職です。
読書歴は大学の頃に遡ります。粗筋や感想をメモするようになりましたのはここ10年程ですので、若い頃に読んだ作品を再読した投稿が多いです。元々海外純文学と推理小説、そして海外の歴史小説が自分の好きな分野でした。しかし、最近は、文明論、科学ノンフィクション、音楽などにも興味が広がってきました。投稿するからには評価出来ない作品もきっちりと読もうと心掛けています。どうかよろしくお願い致します。

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