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rodolfo1さん
rodolfo1
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パンデミックを生き抜いてやっと一息ついたガハクと由美先生の食エッセイ。
文;梅村由美、画;山口晃作「ヒゲのガハクごはん帖」を読みました。梅村先生は山口先生の奥様で、同じ東京藝大ご出身であるとか。この本が素晴らしいのは、かの山口晃先生がご自分が食べて気に入ったものをさらさらとスケッチされた絵が挿絵として掲載されている事でしょう。かの池波正太郎先生の食べ物エッセイではしばしば池波先生の絵が挿絵として使われていますが、所詮は小説家の手すさび。ガハクとは実力差歴然でした。

【ある日のガハクのごはん帖】当初共働きであったガハクと由美夫婦の食事の支度はいつしか由美先生の専任になっていました。ガハクは決して家事をしない人ではありませんでしたが、如何せん大変に忙しく、次第に先生がするようになったのと、ガハクは独自の家事美学を持っており、一緒に家事をすると先生にいろいろと口出しするのが気に入らなかったからでした。この日も先生は朝から朝食作りをし、夜に仕事をするのが常のガハクは昼頃起き出しました。

朝食を摂って近所のアトリエに仕事に行き、2時頃戻って昼食を摂り、先生はガハクが楽しみにしているオヤツの支度を夕方始めました。ガハクは帰宅してオヤツを食べてまた仕事に戻り、夜の9時過ぎにガハクは先生と語らいながら夕食を摂ったのでした。

【お弁当日記ー夏の長野の5日間】2022年の夏、ガハクは長野の善光寺に納めた大作の手直しに長野に滞在しました。東京での用事を済ませた先生も合流し、ガハクに昼飯と夕食を用意しました。というのもガハクは仕事に打ち込むと食事を摂る事すら億劫になるからでした。しかしまずい食べ物を食べるとガハクは意気消沈してしまうのでした。パンデミックの折柄、ホテルで朝食以外の食事は出ませんでした。それまでガハクはお弁当で凌いでいましたが、冷たくて味気ないとこぼしたのでした。先生はホテルの中華弁当が足りないと言うガハクの為にデパートで惣菜を調達し、善行寺門前のケーキ屋でケーキを仕入れ、デパ地下でさまざまな惣菜や釜飯を仕入れてなんとか乗り切りました。

善光寺御開帳記念

【記憶で巡るヴェネチアごはん】ガハクと先生はパンデミックの終結したべネチア・ビエンナーレを訪れました。今回もベネチアの行きつけのトラットリアを訪れ、旨いパスタと魚料理を楽しみましたが、魚を食べる度に醤油が欲しいと思う夫婦でした。他にも夫婦には訪れるべきオステリアや三角サンドの店があり、ソルベットや食後酒のフラゴリーノを楽しみました。。。

【おそば食べたい】パンデミック中もガハクは居職である為に外出出来ないのは問題ありませんでした。しかしストレスを解消する為に家ごはんを楽しみにしていましたが、各種お取り寄せはみな冷凍食品で、美食に飢えたガハクは「おそば食べたい」と泣きながら呟くようになりました。先生達はかつて行きつけだった蕎麦屋の蕎麦を回想しているのみでしたが、ついに2022年10月、日暮里の有名そば店Kを訪れ、日本酒と天婦羅で一杯やりながら、夫婦はあの辛かった日々を思ったのでした。

【ぐらぐら味噌汁】夫婦の実家では。おかずの一種としていつも具沢山味噌汁が用意されていました。先生はガハクの求めに応じてさまざまな具の味噌汁を毎日作ります。ガハクは最近先生が大根をきれいに薄切り出来るようになったと褒めました。常々夫婦は使う味噌の種類に悩んでいましたが、ある時ガハクが自然食品屋で八丁味噌を買って来、その時時間の無かった先生がそれをそのまま味噌汁に入れると、理想の味に仕上がりました。しかもこの味噌はぐらぐら煮立てる程味わいを増す不思議な味噌でした。。。夫婦は毎日味噌汁を煮立たせて味わい。。。

【NYハンバーガー・ショック!】夫婦は2012年にシンポジウム参加の為、初めてNYを訪れました。初めてのNYディナーはテイクアウトのハンバーガーでした。初めて入ったバーガー屋で無事注文を済ませ、袋詰めが終わるとゴツイ店員は溢れんばかりのフライドポテトをそのまま袋に放り込んで手渡しました。夫婦はホテルでぼちぼちバーガーとポテトを摘まみ。。。

【オレンジだけじゃなかったバレンシア】ガハクはある年、世界一周クルーズ船で美術関連のレクチャーと参加型講座をする仕事をし、夫婦そろってマルタ島で船に乗り込んで地中海を回り、ポルトガルのリスボンで船から降りるという夢のような船旅をしました。途上スペインのバレンシアで下船し、大聖堂を訪れ、中央市場のハモン・イベリコ屋でサンドイッチを作ってもらい、ジューススタンドでオレンジジュースを買って素敵な昼食を摂りました。。。

【かき氷、それぞれの思い出】ある夏の日、帰宅した先生がかき氷にしようと思う、と呟くと、ガハクは大喜びしました。しかしそれは先生のコラムのテーマの事で、それを聞いたガハクは自分の心はかき氷への期待でいっぱいだったのにひどい!、と激しく憤慨しました。何年か前に妹と旅行した金沢で素敵な桃のかき氷を食べた先生は機会をとらえてガハクを金沢のかき氷屋へ連れて行きましたが、ガハクは全く興味を示さなかったと思い、それをガハクに指摘すると、子供の頃夏休みに食べたかき氷以上のかき氷は無いと矛盾した返事をし、そう言えばもう何年も夏休みを経験していないとガハクは落胆しました。。。

【定番朝食のできるまで】今から二十数年前、夫婦は初めてのアパートで暮らし始めました。賃料が安いだけが取り柄の部屋だったので、部屋の設えは矛盾に満ちていました。しかし何とかその部屋で6年暮らした夫婦の思い出はやっと定番化に成功した朝食でした。炊事が負担だと文句を言った先生の為にガハクは数日分のピザトーストを作って冷凍保存しましたが、12枚のピザトーストを作るのに1時間以上かかり、全く時短にならないとガハクはこぼしましたが、昼頃起きて冷めたピザトーストを食べると別の風味がして旨いのだとガハクは述懐しました。

【たまにはいいかな、こんな贅沢】やっとパンデミックが終了した2023年、ガハクは青山で某蒸留酒のイベントに参加し、やっと仕事を終えて夫婦で会場を出ましたが、ガハクはちょっと歩きたいと言っていつぞや知り合いに教わった和食の店を目指しました。首尾よく入店出来、おまかせ料理を食べてすっかり気に入りました。

【大掃除からの深夜フレンチ】マンションで暮らし始めた頃、まだ若かった夫婦は熱心に年末の大掃除に取り組みました。ガハクは大掃除に積極的でしたが、先生は何かと言えばサボりたがり、2004年12月29日には一日かけて大掃除をし、夜10時に疲れ果てた先生はもう夕食を作れないと音を上げました。するとガハクは、深夜2時まで当時営業していた近所のフレンチMに先生を連れて行きました。サービスしてくれるのはソムリエバッジを付けたシェフの娘さん姉妹で、丁寧にワインの相談に乗ってくれ、グラス半分という夫婦の注文を少しも嫌がらずに対応してくれました。しかしじきにMは潰れてしまい、いつまでも夫婦はMを懐かしんだのでした。。。

【始まりは、「成分調査サンプル」3皿】先生が最初にガハクに作ったご飯をガハクは成分調査サンプルだと酷評しました。炒り卵とほうれん草ソテーと鶏ささみを安物の皿に別々に盛った所が気に入らなかったのでした。あっという間ににガハクはその食品サンプルを別の料理に改造し、先生は舌を巻きました。実家暮らしだった先生に比べて長く自炊生活を続けていたガハクはしばしば本格的な料理を作っていたのでした。しかしこの頃ガハクは料理の上達した先生が作る料理はみな旨いと評価し、別の言い方をすれば、いつの間にかガハクは先生の料理に飼いならされていたのでした。。。

【チョコレート+αのビスケット】ある年のバレンタインに、先生はガハクにフランスのメゾン製の高級チョコレートビスケットを買い込みました。確かに高級菓子ではありましたが、夫婦は違和感を抱きました。ビスケットにチョコレートが少しもそぐわなかったのでした。双方があまり上等でない菓子の方が良いと夫婦は思ったのでした。。。思えばカクテルという酒はそのようなものだったとガハクは思い。。。

【名もなきジャガイモ料理】夫婦の家庭でしばしば供されるジャガイモ料理は、もともとは手作りのポテトチップスを目指して先生が作ったものでしたが、手がかかるばかりでついぞ旨いチップスは作れなかったのでした。実はそのジャガイモ料理とは。。。

【季節外れのカズノコの世話】ある正月、数の子を仕込みそびれた先生は賞味期限ぎりぎりになって数の子を仕込み始めましたが、ガハクはさっぱり気乗りしませんでした。やはり出来た数の子は正月のスターでは無かったのでした。。。

【コーヒータイムは心の支え】実はガハクは元々コーヒーが好きではありませんでした。ブラックで飲むなど論外で、エスプレッソをしばしば頼むのは量が少ないからというのが理由でした。しかしコーヒーを淹れる、という様式美を楽しみたくなったガハクはコーヒーミルやドリッパーなどさまざまなグッズを買い込み、試行錯誤を繰り返すうちに、いつしかコーヒー党になり、ガハク自らが手塩に掛けて抽出作業をするようになりました。。。コーヒーを淹れる芳醇な香りが台所に立ち込め、迷宮の扉が一つ一つ開いていくようでした。。。ガハクはコーヒーを淹れて飲むこの時間が好きなのだと言い。。。

【ガハクは生クリームが大好き】2017年フランスのシャンティィを訪れた夫婦は名物のマロン・シャンティィを試そうとその菓子を発祥させたレストランを訪れました。その店では老いも若きもみな大量の生クリームの皿を前にティータイムを楽しんでいました。おすすめのシードルと一緒に現れた苺のシャンティィは素敵な旨さでしたが、実はガハクが大好きな生クリームを先生は苦手にしていました。いつもケーキに生クリームが載っているとガハクに進呈していたのでした。それはきっと子供時代に旨い生クリームに当たったか当たらなかったかが差ではないかと先生は思ったのでした。。。ガハクは生クリームを作った菓子にもいろいろ思い入れがあり。。。

いや、大変素晴らしいエッセイで有りました。ガハクの素敵な絵を大層楽しみましたが、私が一番感銘を受けたのは、このエッセイはガハクと先生の食日記であって、従来の食べ物エッセイはたいてい男性作家もしくは女性作家一人の目線で書かれたものでしたが、このエッセイは二人の目線から成っている所が秀逸であったと思いました。大抵のプロ作家は配偶者をエッセイに参加させないと思いますが、ガハクと先生はそうではない。もっと続きを読みたいものでありますが、どうですか。ガハクはとてもお忙しいですからね。でもガハクの精緻に書き込まれた作品もよろしいですが、一筆書きのように描かれたこの挿絵のような作品をもっと見たいと思いました。
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rodolfo1
rodolfo1 さん本が好き!1級(書評数:911 件)

こんにちは。ブクレコ難民です。今後はこちらでよろしくお願いいたします。

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