ゆうちゃんさん
レビュアー:
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小学生の「僕」が様々な夢の世界に紛れ込むファンタジー作品。「僕」が公園のブランコで出会った少年が「僕」そっくりだったのが発端。
少年が主人公の長編小説。ある少年が人々の夢の世界を渡り歩くという物語。その世界に迷い込んだ少年は、たいていは、その夢見る本人のその夢の世界に出て来てその本人と会話する。そして現実世界で夢見る本人が起床すると、その本人は夢の世界では眠りに就き少年は取り残される。取り残された少年が目をつぶると目蓋には、夢見る本人の現実の生活が映るようになっている。少年が別の人の夢に渡るには、その夢の世界で暗闇に閉じこもればよい。再び闇から出れば、少年は別人の夢の世界に立っている。
全部で9話ある。第1話は発端。僕は小学生。ある日学校の帰りに自分そっくりな子に出会い、その子を追いかけていくと、その子がある家に飛び込んだので僕も入った。すると少年は僕を投げ飛ばしてすぐ出て行った。ドアを叩くが開かない。投げ飛ばした少年は遠ざかっていく気配だった。振り向くと、目の前は家の中ではなく畑で、遠くに森が見える。再びドアの方を振り返るとドアは消えてそこにも畑が広がっていた。森の端に見える茅葺屋根の家を目指して進むと、森では祭りが開かれ、3年前に死んだはずのお祖父ちゃんがいた。見たことのある光景だと思ったら、辺りはパパの田舎の風景で、お祖父ちゃんの話だとここはパパの夢の世界だという。僕をここに連れて来た少年はこの夢の世界の「僕」で、きっとその子が現実の世界を見たくて僕と入れ替わったのだろうとお祖父ちゃんは教えてくれた。森が暗くなり始めると、お祖父ちゃんは、間もなくパパが眠りに就くので、ここにやって来る、僕の前でパパを叱って見せようという。僕は気まずい思いをしたくないので、暗い木の穴に隠れた。気が付いてみると、そこはお城で、奇妙なお供を連れた王子がやって来た。ピロ王子だという。ここはピロ王子と呼ばれる少年の夢の世界。彼と遊び、夢の世界の彼が眠りに就く。そして現実のピロ少年を探ると、病気でずっと伏せっている少年だった。次に僕は交通事故で愛児マリオを失ったらしい女の人の夢に紛れ込む。そこは哀しい世界だった。夢の世界だから死んだマリオとその母である女の人を再会させることが出来る。僕はそれを果たして次の夢に行くことにした。新しい世界は、皇帝が支配する場所。だが皇帝なる夢の主人の現実を覗き見ると安アパートに住む失業者だとわかる。次はまた暗闇の世界。行先表示も時刻表もないバス停に無表情な人が立っている。そこに綺麗だが悲しそうな顔の女の人がやってきた。間もなくバスが来た。女の人が乗ろうとするが、僕は行って欲しくないと思って微笑むように頼む。口元だけ微笑した彼女に、運転手は今の行為で乗車する資格を失ったという。その女の人の現実を見ると自殺未遂の人だった。バスは黄泉の国に行く乗り物で、少年の機転で一命を取り戻したらしい。次の夢の世界は催眠術にかかった男、その次は彫刻を彫り続ける人、最後は赤ちゃんの夢枕に立つ。少年は夢を渡り歩きたいわけではなく、早く父母の元に帰りたいと必死だ。赤ちゃんの夢の最後で僕は大きなワニに飲み込まれ、周囲は真っ暗になったのだが・・・。
星新一のショートショート集「おのぞみの結末」に「現実」と言う作品がある。それは主人公が夢を見てその夢がいつの間にか現実になると言う話である。最初の夢では、美人の妻がいて金に不自由なく生活をしているが、そんな生活に退屈になるとスパイの夢を見てそれが現実になる。こうして夢を転々として、最後は死期の近い老人になるのである。彼は早く別の夢の世界に行かねば死ぬばかり、が落ちとなる。本書も夢を転々とするという点では似たコンセプトではある。語り手の僕が、全く縁のない9人の夢の世界を転々とするので、実際は連作短編集のような構成になっていて、前述の「現実」と違い個々の作品に筋書き上の関連性はないし、捻りもない作品となっている。フロイトは、夢は願望を表すと言ったが、病気でベッドの上から動けない子が城の王子であるとか、子供を事故で失った女性が夢で子供と再会するとか、現実は失業者だが夢の中では皇帝と言うような話は、星新一にしてはありきたり。催眠術にかかった人や赤ちゃんの夢の話も、それらよりは創作性があるが、あまり感心しなかった。
最も印象に残ったのは8番目の道端で彫刻を彫り続ける男の話である。その男の脇を多くの人が通り過ぎるが、彫刻に関心を持つ者もいればそうでもない者もいる。男は少年の頃、大理石に理想の社会を、それが無理だとわかると女性、それも満足いかず竜を彫った。彫り上げた竜に自分が満足できたが、その頃には削り続けた大理石があまりに小さくなり、道行く人々の評価は迫力不足というものだった。男は、竜も諦め自分を彫ることにした。理想的な自分を彫り上げてみると、それに比べた自分の劣り具合が気になると言う話である。この夢の中で彫る人が現実の世界でどんな人なのかは何も触れられていない。そこに読者の想像の余地が生じる。夢の話と言うよりは人生観の話でもある。自殺未遂の女性の話も印象的だった。この話は、自分には何となくジブリの「千と千尋の神隠し」に登場する、千尋がカオナシと一緒に乗る列車を思い出す。
ファンタジーではあるが、全編を読んでみると、無理やり長編にする必要はなく、星新一らしい部分だけのショートショートでも良かったのではないかと思う。
全部で9話ある。第1話は発端。僕は小学生。ある日学校の帰りに自分そっくりな子に出会い、その子を追いかけていくと、その子がある家に飛び込んだので僕も入った。すると少年は僕を投げ飛ばしてすぐ出て行った。ドアを叩くが開かない。投げ飛ばした少年は遠ざかっていく気配だった。振り向くと、目の前は家の中ではなく畑で、遠くに森が見える。再びドアの方を振り返るとドアは消えてそこにも畑が広がっていた。森の端に見える茅葺屋根の家を目指して進むと、森では祭りが開かれ、3年前に死んだはずのお祖父ちゃんがいた。見たことのある光景だと思ったら、辺りはパパの田舎の風景で、お祖父ちゃんの話だとここはパパの夢の世界だという。僕をここに連れて来た少年はこの夢の世界の「僕」で、きっとその子が現実の世界を見たくて僕と入れ替わったのだろうとお祖父ちゃんは教えてくれた。森が暗くなり始めると、お祖父ちゃんは、間もなくパパが眠りに就くので、ここにやって来る、僕の前でパパを叱って見せようという。僕は気まずい思いをしたくないので、暗い木の穴に隠れた。気が付いてみると、そこはお城で、奇妙なお供を連れた王子がやって来た。ピロ王子だという。ここはピロ王子と呼ばれる少年の夢の世界。彼と遊び、夢の世界の彼が眠りに就く。そして現実のピロ少年を探ると、病気でずっと伏せっている少年だった。次に僕は交通事故で愛児マリオを失ったらしい女の人の夢に紛れ込む。そこは哀しい世界だった。夢の世界だから死んだマリオとその母である女の人を再会させることが出来る。僕はそれを果たして次の夢に行くことにした。新しい世界は、皇帝が支配する場所。だが皇帝なる夢の主人の現実を覗き見ると安アパートに住む失業者だとわかる。次はまた暗闇の世界。行先表示も時刻表もないバス停に無表情な人が立っている。そこに綺麗だが悲しそうな顔の女の人がやってきた。間もなくバスが来た。女の人が乗ろうとするが、僕は行って欲しくないと思って微笑むように頼む。口元だけ微笑した彼女に、運転手は今の行為で乗車する資格を失ったという。その女の人の現実を見ると自殺未遂の人だった。バスは黄泉の国に行く乗り物で、少年の機転で一命を取り戻したらしい。次の夢の世界は催眠術にかかった男、その次は彫刻を彫り続ける人、最後は赤ちゃんの夢枕に立つ。少年は夢を渡り歩きたいわけではなく、早く父母の元に帰りたいと必死だ。赤ちゃんの夢の最後で僕は大きなワニに飲み込まれ、周囲は真っ暗になったのだが・・・。
星新一のショートショート集「おのぞみの結末」に「現実」と言う作品がある。それは主人公が夢を見てその夢がいつの間にか現実になると言う話である。最初の夢では、美人の妻がいて金に不自由なく生活をしているが、そんな生活に退屈になるとスパイの夢を見てそれが現実になる。こうして夢を転々として、最後は死期の近い老人になるのである。彼は早く別の夢の世界に行かねば死ぬばかり、が落ちとなる。本書も夢を転々とするという点では似たコンセプトではある。語り手の僕が、全く縁のない9人の夢の世界を転々とするので、実際は連作短編集のような構成になっていて、前述の「現実」と違い個々の作品に筋書き上の関連性はないし、捻りもない作品となっている。フロイトは、夢は願望を表すと言ったが、病気でベッドの上から動けない子が城の王子であるとか、子供を事故で失った女性が夢で子供と再会するとか、現実は失業者だが夢の中では皇帝と言うような話は、星新一にしてはありきたり。催眠術にかかった人や赤ちゃんの夢の話も、それらよりは創作性があるが、あまり感心しなかった。
最も印象に残ったのは8番目の道端で彫刻を彫り続ける男の話である。その男の脇を多くの人が通り過ぎるが、彫刻に関心を持つ者もいればそうでもない者もいる。男は少年の頃、大理石に理想の社会を、それが無理だとわかると女性、それも満足いかず竜を彫った。彫り上げた竜に自分が満足できたが、その頃には削り続けた大理石があまりに小さくなり、道行く人々の評価は迫力不足というものだった。男は、竜も諦め自分を彫ることにした。理想的な自分を彫り上げてみると、それに比べた自分の劣り具合が気になると言う話である。この夢の中で彫る人が現実の世界でどんな人なのかは何も触れられていない。そこに読者の想像の余地が生じる。夢の話と言うよりは人生観の話でもある。自殺未遂の女性の話も印象的だった。この話は、自分には何となくジブリの「千と千尋の神隠し」に登場する、千尋がカオナシと一緒に乗る列車を思い出す。
ファンタジーではあるが、全編を読んでみると、無理やり長編にする必要はなく、星新一らしい部分だけのショートショートでも良かったのではないかと思う。
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神奈川県に住むサラリーマン(技術者)でしたが24年2月に会社を退職して今は無職です。
読書歴は大学の頃に遡ります。粗筋や感想をメモするようになりましたのはここ10年程ですので、若い頃に読んだ作品を再読した投稿が多いです。元々海外純文学と推理小説、そして海外の歴史小説が自分の好きな分野でした。しかし、最近は、文明論、科学ノンフィクション、音楽などにも興味が広がってきました。投稿するからには評価出来ない作品もきっちりと読もうと心掛けています。どうかよろしくお願い致します。
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- ISBN:B000J8P2HE
- 発売日:2025年12月03日
- 価格:4000円
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