書評でつながる読書コミュニティ
  1. ページ目
詳細検索
タイトル
著者
出版社
ISBN
  • ログイン
無料会員登録

いけぴん
レビュアー:
勤王の志士とか新選組をあざ笑うかのような酒井伴史郎の日常
和歌山紀州藩の下級武士酒井伴四郎は江戸藩邸勤務を命ぜられ家族を置いて幕末の江戸で単身赴任を行う。伴四郎は筆まめな性格で、単身赴任の日々を事細やかに日記に記している。本書は、伴四郎の残した日記を手がかりに、幕末の江戸の食生活を覗いてみようという一冊である。

伴四郎が江戸にやってきたのは万延元年、桜田門外の変の約三ヶ月後である。世の中に尊皇攘夷の風が吹き始めた頃、すなわち歴史的にみると緊迫した空気が漂う頃であった。ところが彼の日記にはそのような緊張感は微塵も感じられない。せっかくやってきた江戸を如何に楽しむか、少ない給金で日々の食事を如何にやりくりするかに終始している。下級武士ゆえ食事は基本的に自炊が中心、まれに外食を挟んで生活にメリハリを生み出している。とにかくよく食べよく呑む伴四郎である。

『さて向島あたり茶屋・料理屋向かつ別荘などの風雅なること筆紙につくしがたく、ただうらやましくばかり也、夫より牛の御前へ参詣、この所の懸茶屋にて茶を呑、桜餅など喰(略)浅草観音え参詣ここにて浅草餅を喰、それより浅草通りにてすしなど喰、また祇園豆腐にて飯を喰』

現代と違って毎日が仕事で埋め尽くされているわけではなく、十分な自由時間を持っている伴四郎。江戸の名所に訪れては、行く道帰る道でさまざまなものを食べている。加えてお酒も大好き。したたかに飲み食いして酔っ払ったりする場面もしばしば。とても幕末の緊迫感どころではない。

また、単行本刊行後に発見された和歌山に戻ってからの日記をもとにした記述も読みどころ。ますます物騒な世の中に突入し、伴四郎も長州征伐に参加している。幕末ものの歴史小説を読むと世の中の武士がすべて世の中を憂い、それぞれの立場で命を燃やすような印象を受けるが、実はそんな人はごく一部なのかもしれないと思ってしまう。

以下の日記は、第二次長州征伐に向かう途中での記述である。

『朝六ツ半時兵庫出立(略)、須磨寺参詣致(略)、あつ盛の塚へ参詣、それより一ノ谷へ出、ひよ鳥越一見、あつもりそば喰、塩屋村通、舞子浜絶景一休ミ、酒呑、明石の城下通り、加古川宿支にて大久保へ八ツ時過宿ル』

源平古戦場を見物し、行く先々で名物を食べ、酒を楽しむ。とてもこれから戦争に行く人とは思えない旅の様子。生まれた時から太平の世で育った武士が、突然戦争に参加せよと言われても結局はこんな調子になってしまうのが本当のところなのかもしれない。

幕末の武士のリアルな実態を知ることで、巷にあふれる眉間にしわを寄せた幕末小説が逆に面白くなる気がする。

よい視点が得られた。
お気に入り度:本の評価ポイント本の評価ポイント本の評価ポイント本の評価ポイント
掲載日:
外部ブログURLが設定されていません
投票する
投票するには、ログインしてください。
いけぴん
いけぴん さん本が好き!1級(書評数:1241 件)

山口での単身赴任を終え大阪に戻りました。これからは通勤時間を使っての読書が中心になります。

参考になる:3票
あなたの感想は?
投票するには、ログインしてください。

この書評へのコメント

  1. No Image

    コメントするには、ログインしてください。

書評一覧を取得中。。。
  • あなた
  • この書籍の平均
  • この書評

※ログインすると、あなたとこの書評の位置関係がわかります。

『幕末単身赴任 下級武士の食日記 増補版』のカテゴリ

フォローする

話題の書評
最新の献本
ページトップへ