hackerさん
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おそらく、日本ではこの本でしか読めない二つの傑作、レイ・ブラッドベリの『死人使い』とブラッドリイ・ストリックランドの『墓碑銘』が収録されています。
仁賀克維編纂によるハヤカワ文庫NV版の怪奇・恐怖小説アンソロジーの第三巻です。本書には13作収録されています。この3冊のアンソロジーは、ときのきさん主催の「ホラー・怪奇幻想 百物語」がきっかけで、再読しました。
まず、収録作のうち、ベストと思われる作品を紹介します。
●『もう一人の子供』(オーガスト・ダーレス、1950年)
70歳のジェイソン・コルスコットは、若き日に破れた恋の痛手から立ち直れず、独身を通していました。失恋の相手のイーヴリンはセイロンで暮らしていることは知っていましたが、ある日、その昔、子供は6人ほしいと言っていたイーヴリンが気に入り購入した6人の子供が描かれている絵に、異変があることに気づきます。よく知られた絵画怪談の一つです。なんとも悲しいお話です。
●『墓碑銘』(ブラッドリイ・ストリックランド、1966年)
傑作です。作者については「残念ながら、何らお知らせする資料も持ち合わせていない。だいぶ古い作品のようにも思えるが」「この作者はこれ一作しか書いていない」と編者の紹介文にあります。南北戦争の帰還兵を題材にした作品ですが、初読の時には強烈な印象を受けました。翻訳で読めるのは、本書だけのようです。なお、本作は、1974年に、クレジットはされていませんが、カナダで映画化されています。映画の題名を言うとネタバレになるので、ここでは触れないでおきます。
●『週末の客』(L.P.ハートレイ、1954年)
『W.S』という題でも知られた、各種アンソロジーに収録されている有名な作品です。小説家の主人公に、「先生の大ファン」と書かれ、W.Sと署名された葉書が届きます。そして、二枚目、三枚目と続きます。主人公は、葉書の投函場所が、自分の住むロンドンにだんだん近づいてくることに気づきます。相手は誰なのでしょうか。
●『海への悲しい道』(ジェラルド・カーシュ、初出不詳)
『豚の島の女王』や『骨のない人間』のようなグロテスクな作品を思い浮かべるカーシュですが、本作は、怪奇・恐怖小説というよりは心理小説です。本作も翻訳されているのは、この本だけのようです。一人の見栄っ張りで平凡な男が、借金で二進も三進も行かなくなって発作的な殺人を犯して逃亡するものの、すぐに逮捕され、最後は自殺するという話ですが、ケチな殺人者の心理描写が印象に残ります。そして、海は彼にとっての自由の象徴として、同時に金に追われて生きている我々の自由の象徴として、本作では扱われています。
●『死人使い』(レイ・ブラッドベリ、1947年)
抒情的なイメージのあるブラッドベリですが、時として、とてつもなく怖い短編も書いていて、本作もその一つです。町のみんなに馬鹿にされている葬儀屋の話ですが、『墓碑銘』同様、今となっては、これが読める翻訳本は、本書だけのようです。それだけ貴重です。
続いて、次善と思うものを紹介します。
●『心変わり』(ロバート・ブロック、1948年)
「ぼく」と可憐な時計屋の少女の恋物語が、ラストに至って、ブロックらしい暗転を見せる作品です。
●『特別配達』(ジョン・コリア、初出不詳)
マネキン人形に恋をした男の話です。ダーク・ファンタジーですが、「それは永遠にアルバートとエヴァのからだを密着させてしまった」というラストが、忘れられない余韻を残します。
●『子守唄』(チャールズ・ボーモント、1958年)
「聞こえる...聞こえるんですよ、カーリーの声が」
赤ん坊と一緒に暮らしている老夫婦という設定からして、ああこれは、と思われる方も多いでしょう。それは当たらずと言えども遠からずなのですが、『猿の手』からインスパイアされたと思われる展開が待っています。
●『牝猫ミナ』(ジャック・ユネ、初出不詳)
フランスの作家ですが、日本で翻訳されているのはこれ一作のようですし、作者の情報は仏語版Wikipeiaにも登録されていなくて、詳細は不明です。「わが国に有島、鍋島あれば、フランスにもミナあり。とくとごろうじろ」と編者は紹介していますが、その通りの化け猫譚です。ただ、ちょっと悲しい読後感を残す作品です。
●『おれの夢の女』(リチャード・マシスン、1963年)
他の人間の事故等の急死の場面を予知夢で見る女の話です。彼女のボーイフレンドの「おれ」は彼女の見た夢に現れる家を訪ね、その家の誰かの死を避けたかったら、どういう死に方をするのか教えてやる、と言って脅迫することを生業としているのです。オチは分かりますが、発想の奇抜さが、いかにもマシスンです。
その他の作品は、名前と作者名だけ記しておきます。
●『アイネ・クライネ・ナハトムジーク』(フレデリック・ブラウン、1965年)
●『エステルはどこ?』(エイブラム・デイヴィッドスン、1961年)
●『特殊能力』(シリア・フレムリン、1967年)
これらの作品も、水準以下というわけではありません。念のため。
さて、これで全三巻のレビューは終わりですが、実に内容の充実したアンソロジーであることに、あらためて感心します。そして、本書に関しては『死人使い』と『墓碑銘』を読むだけでも、手に取る価値はあると思います。
まず、収録作のうち、ベストと思われる作品を紹介します。
●『もう一人の子供』(オーガスト・ダーレス、1950年)
70歳のジェイソン・コルスコットは、若き日に破れた恋の痛手から立ち直れず、独身を通していました。失恋の相手のイーヴリンはセイロンで暮らしていることは知っていましたが、ある日、その昔、子供は6人ほしいと言っていたイーヴリンが気に入り購入した6人の子供が描かれている絵に、異変があることに気づきます。よく知られた絵画怪談の一つです。なんとも悲しいお話です。
●『墓碑銘』(ブラッドリイ・ストリックランド、1966年)
傑作です。作者については「残念ながら、何らお知らせする資料も持ち合わせていない。だいぶ古い作品のようにも思えるが」「この作者はこれ一作しか書いていない」と編者の紹介文にあります。南北戦争の帰還兵を題材にした作品ですが、初読の時には強烈な印象を受けました。翻訳で読めるのは、本書だけのようです。なお、本作は、1974年に、クレジットはされていませんが、カナダで映画化されています。映画の題名を言うとネタバレになるので、ここでは触れないでおきます。
●『週末の客』(L.P.ハートレイ、1954年)
『W.S』という題でも知られた、各種アンソロジーに収録されている有名な作品です。小説家の主人公に、「先生の大ファン」と書かれ、W.Sと署名された葉書が届きます。そして、二枚目、三枚目と続きます。主人公は、葉書の投函場所が、自分の住むロンドンにだんだん近づいてくることに気づきます。相手は誰なのでしょうか。
●『海への悲しい道』(ジェラルド・カーシュ、初出不詳)
『豚の島の女王』や『骨のない人間』のようなグロテスクな作品を思い浮かべるカーシュですが、本作は、怪奇・恐怖小説というよりは心理小説です。本作も翻訳されているのは、この本だけのようです。一人の見栄っ張りで平凡な男が、借金で二進も三進も行かなくなって発作的な殺人を犯して逃亡するものの、すぐに逮捕され、最後は自殺するという話ですが、ケチな殺人者の心理描写が印象に残ります。そして、海は彼にとっての自由の象徴として、同時に金に追われて生きている我々の自由の象徴として、本作では扱われています。
●『死人使い』(レイ・ブラッドベリ、1947年)
抒情的なイメージのあるブラッドベリですが、時として、とてつもなく怖い短編も書いていて、本作もその一つです。町のみんなに馬鹿にされている葬儀屋の話ですが、『墓碑銘』同様、今となっては、これが読める翻訳本は、本書だけのようです。それだけ貴重です。
続いて、次善と思うものを紹介します。
●『心変わり』(ロバート・ブロック、1948年)
「ぼく」と可憐な時計屋の少女の恋物語が、ラストに至って、ブロックらしい暗転を見せる作品です。
●『特別配達』(ジョン・コリア、初出不詳)
マネキン人形に恋をした男の話です。ダーク・ファンタジーですが、「それは永遠にアルバートとエヴァのからだを密着させてしまった」というラストが、忘れられない余韻を残します。
●『子守唄』(チャールズ・ボーモント、1958年)
「聞こえる...聞こえるんですよ、カーリーの声が」
赤ん坊と一緒に暮らしている老夫婦という設定からして、ああこれは、と思われる方も多いでしょう。それは当たらずと言えども遠からずなのですが、『猿の手』からインスパイアされたと思われる展開が待っています。
●『牝猫ミナ』(ジャック・ユネ、初出不詳)
フランスの作家ですが、日本で翻訳されているのはこれ一作のようですし、作者の情報は仏語版Wikipeiaにも登録されていなくて、詳細は不明です。「わが国に有島、鍋島あれば、フランスにもミナあり。とくとごろうじろ」と編者は紹介していますが、その通りの化け猫譚です。ただ、ちょっと悲しい読後感を残す作品です。
●『おれの夢の女』(リチャード・マシスン、1963年)
他の人間の事故等の急死の場面を予知夢で見る女の話です。彼女のボーイフレンドの「おれ」は彼女の見た夢に現れる家を訪ね、その家の誰かの死を避けたかったら、どういう死に方をするのか教えてやる、と言って脅迫することを生業としているのです。オチは分かりますが、発想の奇抜さが、いかにもマシスンです。
その他の作品は、名前と作者名だけ記しておきます。
●『アイネ・クライネ・ナハトムジーク』(フレデリック・ブラウン、1965年)
●『エステルはどこ?』(エイブラム・デイヴィッドスン、1961年)
●『特殊能力』(シリア・フレムリン、1967年)
これらの作品も、水準以下というわけではありません。念のため。
さて、これで全三巻のレビューは終わりですが、実に内容の充実したアンソロジーであることに、あらためて感心します。そして、本書に関しては『死人使い』と『墓碑銘』を読むだけでも、手に取る価値はあると思います。
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「本職」は、本というより映画です。
本を読んでいても、映画好きの視点から、内容を見ていることが多いようです。
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- 出版社:早川書房
- ページ数:0
- ISBN:9784150401832
- 発売日:1978年08月01日
- 価格:797円
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