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マーブル
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「だからこそ小松左京が並みの作家とはまるきり逆の創造過程を持っていたとしても不思議ではない」(巻末筒井康隆による「小松左京論」より)

※ネタバレ注意! 以下の文には結末や犯人など重要な内容が含まれている場合があります。

 日本SF界の巨人。大きな身体に、大いなる知識。
 むかしむかしSFマガジンを読んでいた頃から、勝手にそんなイメージを抱いているが、実は好きな数編の長編作品を繰り返して読むばかりで、作品をそんなに読んではいない。今回は、買ったまま随分と年月が経ってしまった小松自薦の短編集を読んでみた。

 順番が逆さまになってしまうが、巻末に載る筒井康隆の「小松左京論」が面白い。ようやく準備整い論じる内容は、その正否をとやかく言える程作家というものに詳しくなくとも十分に楽しめる。

 小松左京の作品はテーマから系統発生的に作られる。
 
 筒井が言うには、一般的な作家はいくつものアイデアが個体発生的に湧いて来て、それがいくつか集まって小説を構成しそうになったとき作品ができあがる。それに対して小松は、「こうなったらどうなる」というアイデアがすなわちテーマであり、そこに描くための材料を膨大な知識の中から汲み上げて創りだす。

 「日本を沈没させたらどうなるか」

 そう考えて、地質・地震・気象・政治・経済・学界・外交・等々の知識を所蔵の「長持」を引っ張りだして並べていく。積上がった知識、情報を、削って減らしてなんとか作品の形にする。

 本当に筒井が言うように、そんなタイプが珍しいのかどうかは、考えたこともなかったが、そんな眼で本文庫に納まっている自選作品たちを見てみると、何とはなしに巨匠の創作活動の道筋が見えてくる気がしないでもない。


 現代にさとるのお化けが生き残っているとしたら。『さとるの化物』
 花と意志が交わせるとしたら。『花のこころ』
 囲碁の“セキ“の状態があったとしたら。『安置所の碁打ち』
 昔話を語れる人が超高齢者しか残っていなかったら。『ムカシむかし……』
 八百比丘尼が現代まで生き残っていたら。『比丘尼の死』
 
 11編納められているが、中にはテーマを推測して書いただけでネタバレになってしまう恐れがある作品もあるのでこの辺にしておくが、なるほど読み終えた後に、思いついたこんなテーマから広がっていったのでは、と想像するのは非常に面白い。

 反対に、アイデア重視の創作の中には、グロテスクやおどろおどろしさ、禍々しさと言うような描写が醸し出す雰囲気のようなものは、多少物足りないかもしれない。どんなに悲惨な人類の危機を描いても、どこか未来を信じられる、そんなラストを描く小松左京らしいテイストと言えるのかもしれない。

【読了日2021年7月1日】 

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マーブル
マーブル さん本が好き!1級(書評数:1066 件)

 文学作品、ミステリ、SF、時代小説とあまりジャンルにこだわらずに読んでいますが、最近のものより古い作品を選びがちです。
 
 2019年以降、小説の比率が下がって、半分ぐらいは学術的な本を読むようになりました。哲学、心理学、文化人類学、民俗学、生物学、科学、数学、歴史等々こちらもジャンルを絞りきれません。おまけに読む速度も落ちる一方です。

 2022年献本以外、評価の星をつけるのをやめることにしました。自身いくつをつけるか迷うことも多く、また評価基準は人それぞれ、良さは書評の内容でご判断いただければと思います。

プロフィール画像は自作の切り絵です。不定期に替えていきます。飽きっぽくてすみません。

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