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千世さん
千世
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『ヘミングウェイ全短編』の最後の作品集です。自ら従軍記者として取材し、身近に体験したスペイン内戦と第二次世界大戦を描いたものが多く、今まで以上に「死」、それも「突然の死」をダイレクトに伝えます。
 全3冊からなる『ヘミングウェイ全短編』の最後の作品集です。スペイン内戦に従軍してからのヘミングウェイ晩年の作品集であり、生前未発表の7遍も含まれています。

 自らが取材し、体験したスペイン内戦と第二次世界大戦のヨーロッパ戦線を描いた作品が多く、今までの短編集以上に「死」がダイレクトに伝わります。驚くのはヘミングウェイ自身が、戦車が行き交い銃弾が飛び交う戦場のまさに真っ只中で取材をしていたという事実で、「死」それも「突然の死」がいかに間近であったかということを強く認識しました。これらの幾多の「死」が、やがては拳銃自殺をすることになった彼の晩年の病に、どれほどの影響を与えたのでしょうか。

 「分水嶺の下で」や「十字路の憂鬱」、「死の遠景」などはまさにその戦場が舞台。目の前で簡単に人が死んで行く現実。それを記録し、映像に残すのが従軍記者の役目。残酷な記録は、戦争の矛盾をあっけないほど簡潔に映し出します。威風堂々と勝利の幻想を目指して進撃する、偉大な戦艦のような戦車。その映像は実に素晴らしい出来だったそうです。

 私の一番印象に残った作品は「戦いの前夜」。今日の仕事(要するに戦争)を終え、明日の戦いを前にクラブやホテルに集い、飲み、食べ、クラップ・ゲームに興じる男たち。ただそんな様子が描かれるだけ。明日にはやはり戦争と死が待っている。タイトルにもなっている「蝶々と戦車」も印象的です。戦地のバーを舞台に、罪のない男のあっけない死によって、戦場ではない場所で戦争の矛盾を描いてみせます。

 「アフリカ物語」は象牙を獲るために象を殺す大人たちへの、少年の複雑な思いが描かれます。答えの出ない矛盾が描かれている点では戦場と同じです。

 他にはおなじみのニック・アダムスや子どものための童話、盲目の男を主人公にした物語など。最後なので、今までの作品集でもれたものをここに入れた、というものもあるかもしれません。

 ラストの「異郷」は若い女性とのドライブ旅の中で、男が自身の半生を振り返るストーリーで、ヘミングウェイ自身の内面が描かれていると考えていいでしょう。別れた妻たちや子どもたちへの思いが伝わります。


『われらの時代・男だけの世界 ヘミングウェイ全短編1』
『勝者に報酬はない・キリマンジャロの雪 ヘミングウェイ全短編2』


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千世
千世 さん本が好き!1級(書評数:403 件)

国文科出身の介護支援専門員です。
文学を離れて働く今も、読書はライフワークです。

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『蝶々と戦車・何を見ても何かを思いだす―ヘミングウェイ全短編〈3〉』のカテゴリ

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