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DBさん
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宗教観から生まれた話
バベルの図書館の三巻はホーソーンの短編集です。
ホーソーンは『緋文字』しか読んだことがなかったが、セイレムに生まれそのピューリタン的な田舎町を愛したホーソーンの宗教観が現れていたと思う。
ボルヘスによれば「ウェイクフィールド」がホーソーンの短編の中の最高傑作だそうですが、これは十年連れ添った妻を残して突然失踪した男の話だ。
ウェイクフィールドという名のその男は数日旅に出ると言い残して妻に別れを告げていった。
だが実際には旅どころか自宅の隣の通りに部屋を借り、妻にも友人たちにも知られぬまま二十年にわたってそこで暮らしていたのだ。
そして寡婦となった自分の妻の様子を相手に気づかれないようにしながら観察し続けたのだった。
ウェイクフィールドの捻じ曲がった妻への執着もさることながら、二十年以上たってまるで一昨日出かけて帰ってきましたといった風情で帰宅した夫を迎え入れた妻の心境も謎すぎる。

表題作である「人面の大岩」は、高い山脈に囲まれた大きな谷間にある人の顔のように見える巨大な岩盤の話だ。
谷間に住む人たちにとっては毎日見慣れた大岩だったが、将来この大岩の近くで生まれた子の中からこの世で最も偉大で最も高貴な人物が誕生し、成人するとその大岩と生き写しの顔となるという予言があった。
その谷間で生まれ育ち、農夫をしていたアーネストはいつかその偉大な人物に出合えることを夢見ながら自然にはぐくまれた素朴さを持っていた。
大金持ちの商人が、勇猛な将軍が、政治家が、そして詩人が予言されたものともてはやされて谷間へ帰ってきた。
だがアーネストの目からは彼らは大岩とは似ても似つかないように見えていた。
そうしているうちに年月が経ち、老人となったアーネストが見た真実が描かれていました。
最後に出てくる「牧師の黒いベール」もそうだが、宗教色がありながらもそれを超越した真実を描こうとしているようにも思えた。

「地球の大燔祭」という話でも最後には神に行きつく。
人類が過去の遺物や有害なものとみなしたもろもろを焼き尽くす焚火をしようということになり、焚火には勲章や家系図といった身分にまつわるものからはじまって酒や武器、煙草に紙幣、死刑執行の道具に本までもが投げ込まれていく。
身分差も有害物質も金もなければ争う理由も亡くなるのだろうか。
食べ物しかなかった時代にも殺人事件はあったから、人間がいる限り争いは残ると思うけどね。
最後に司祭服や十字架といった宗教関連の物も焚火に投げ込まれたが、なぜか聖書だけは焦げ跡ひとつなく焼け残った。
どれも印象に残る短編だった。
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DB さん本が好き!1級(書評数:2030 件)

好きなジャンルは歴史、幻想、SF、科学です。あまり読まないのは恋愛物と流行り物。興味がないのはハウツー本と経済書。読んだ本を自分の好みというフィルターにかけて紹介していきますので、どうぞよろしくお願いします。

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この書評へのコメント

  1. ef2023-06-26 05:07

    私も新版バベルの図書館で読みました(旧版、欲しかったんだけど揃えている途中で絶版! しくしく)。私もホーソンは『緋文字』しか読んでいなかったところ、本書でその他の作品も知ったという同じ口であります。
    『ウェイクフィールド』、いいですよね~。この作品を妻側の視点から描いた『ウェイクフィールドの妻』という本も出ていますよ~。
    https://www.honzuki.jp/book/224710/review/247019/

  2. DB2023-06-26 21:51

    ウェイクフィールドは印象に残る話でした。妻は何も考えてなかった気がしなくもないですが、ベルディがどう描いたか気になります。ご紹介ありがとうございます。

  3. ゆうちゃん2023-06-27 00:15

    ホーソーンの短編集は「twice told tales」と言う副題がついていませんでしたでしょうか。これはシェークスピアの史劇「ジョン王」のセリフに由来し「人生は二度語られた話のようにつまらない」と言う意味だそうです(著者の謙遜でしょうね)。
    実は表題作の「人面の大岩」を読みたくて桐原書店の「twice told tales」の上下巻を買ったらこれだけ載っていませんでした。参考書として対訳が出ていたのをそちらを買いました。何故表題作になるような名作がこちらに載っていなかったのか、未だに謎です。

  4. DB2023-06-27 00:23

    「語りつくされた人生」ではあるものの、「時よとまれ」と言いたくなるものなのかもしれないですね(^^ゞ
    ボルヘスの選んだ短編集では「人面の大岩」より「ウェイクフィールド」の方が圧倒的な存在感を放っていました。

  5. No Image

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