紅い芥子粒さん
レビュアー:
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この本に綴られているのは、ジゴクのような小さな王国とそこにすむ鬼の物語である。
主な語り手は、白人の老女で、足首に鉄の足輪の跡があった。
足輪をはめられたのは五十年も前のこと。そのときの傷は、五十年経った今も疼き、ときには血が流れる。
老女の語りは、渦を巻くように心の底へ底へと下りていき、彼女の足首と心に深い傷を残した、鉄の足輪の本質に迫っていく。
彼女の名はジニーといった。十四歳のとき、小さな農場主の妻になった。
夫とは、親子ほども年が離れていた。母親の遠い親戚の男で、ジニーは、だまされて農場に連れてこられたのだった。
彼は、ジニーの両親の前で、こういったのだ。
自分は、楽園のような農場の主人である。
ま四角の広い土地には小川が流れ、川沿いにはゆたかな畑があり、耕す人手もある。
たくさんの豚がいて、飼育する人手もある。
農場のまん中には、冷たい水が湧く井戸がある。
そして、王と王妃が暮らす宮殿のような屋敷がある。
来てみると、ま四角の農場と、小さな家があった。
12歳と10歳の黒人姉妹の奴隷と、黒人男の奴隷が三人いた。
農場は、夫を絶対君主とする小さな王国のようだった。
楽園というよりジゴクに近い王国だった。
絶対君主の夫は、とんでもない暴君だったから。
死ぬまで奴隷をムチ打つような……
夫は、理由があってもなくても、幼い妻を殴った。
ジニーは、妻という名の夫の奴隷にすぎなかった。
数年たつと、夫はジニーをベッドから放り出し、黒人姉妹の部屋に通い始めた。
ジニーは黒人姉妹を虐待する。奴隷の虐待に嫉妬と憎しみが加わった。
豚を殺すナイフが首の後ろに突き刺さって、暴君のような夫が死んだとき、
時代は1861年。南北戦争、奴隷解放令。
そんな大きな歴史のうねりが、語られることはない。
しかし、黒人姉妹は、決死の反乱を起こした。虐げられていた黒人姉妹は、白人女の足首に鉄の足輪をはめたのだ……
後半は、語り手に黒人姉妹の姉が加わる。
1861年の50年後、彼女も老女になっている。
彼女は、あの白人の女に会いに行こうとしている。
白人農場主の妻と黒人奴隷。支配、被支配の関係ではあったが、ひとりの男に性と暴力で支配されていた同類でもあったのだ。
黒人老女の語りも、渦を巻いて心の底へ底へと下りていく。
深い深い井戸の底をのぞき込むような読書体験だった。
訳者あとがきによれば、作者のレアード・ハントは、川端康成を敬愛しているという。
なるほどと思わせる語りであり文章だった。
足輪をはめられたのは五十年も前のこと。そのときの傷は、五十年経った今も疼き、ときには血が流れる。
老女の語りは、渦を巻くように心の底へ底へと下りていき、彼女の足首と心に深い傷を残した、鉄の足輪の本質に迫っていく。
彼女の名はジニーといった。十四歳のとき、小さな農場主の妻になった。
夫とは、親子ほども年が離れていた。母親の遠い親戚の男で、ジニーは、だまされて農場に連れてこられたのだった。
彼は、ジニーの両親の前で、こういったのだ。
自分は、楽園のような農場の主人である。
ま四角の広い土地には小川が流れ、川沿いにはゆたかな畑があり、耕す人手もある。
たくさんの豚がいて、飼育する人手もある。
農場のまん中には、冷たい水が湧く井戸がある。
そして、王と王妃が暮らす宮殿のような屋敷がある。
来てみると、ま四角の農場と、小さな家があった。
12歳と10歳の黒人姉妹の奴隷と、黒人男の奴隷が三人いた。
農場は、夫を絶対君主とする小さな王国のようだった。
楽園というよりジゴクに近い王国だった。
絶対君主の夫は、とんでもない暴君だったから。
死ぬまで奴隷をムチ打つような……
夫は、理由があってもなくても、幼い妻を殴った。
ジニーは、妻という名の夫の奴隷にすぎなかった。
数年たつと、夫はジニーをベッドから放り出し、黒人姉妹の部屋に通い始めた。
ジニーは黒人姉妹を虐待する。奴隷の虐待に嫉妬と憎しみが加わった。
豚を殺すナイフが首の後ろに突き刺さって、暴君のような夫が死んだとき、
時代は1861年。南北戦争、奴隷解放令。
そんな大きな歴史のうねりが、語られることはない。
しかし、黒人姉妹は、決死の反乱を起こした。虐げられていた黒人姉妹は、白人女の足首に鉄の足輪をはめたのだ……
後半は、語り手に黒人姉妹の姉が加わる。
1861年の50年後、彼女も老女になっている。
彼女は、あの白人の女に会いに行こうとしている。
白人農場主の妻と黒人奴隷。支配、被支配の関係ではあったが、ひとりの男に性と暴力で支配されていた同類でもあったのだ。
黒人老女の語りも、渦を巻いて心の底へ底へと下りていく。
深い深い井戸の底をのぞき込むような読書体験だった。
訳者あとがきによれば、作者のレアード・ハントは、川端康成を敬愛しているという。
なるほどと思わせる語りであり文章だった。
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読書は、登山のようなものだと思っています。読み終わるまでが上り、考えて感想や書評を書き終えるまでが下り。頂上からどんな景色が見られるか、ワクワクしながら読書という登山を楽しんでいます。
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- 出版社:朝日新聞出版
- ページ数:232
- ISBN:9784022513137
- 発売日:2015年10月07日
- 価格:1944円
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