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ぷるーと
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水戸光圀は全国的に人気があるけれど・・・。
 水戸というと、黄門さまとして有名な水戸光圀公という世直しを実践した庶民の味方のような優れたお方がいて、水戸斉昭公は幕末の進歩主義者で、と水戸の殿様は優れた方ぞろい・・・、なのだと思っていた。この話を読むまでは。

 水戸藩は、実は貧しい藩なのだという。これといった特産物のない地方の藩の中には、確かに財政難だった藩も多かったようだ。だが、水戸藩には、別事情があった。本当は特産などない貧しい藩なのに、徳川御三家の一つというプライドのため、歴代藩主は藩の実情以上の見栄を張った。そのため、水戸は、他藩よりも税率が高かった。
 黄門様は、新し物好きだったということで有名だ。珍しい洋食を食べ、新しいものを何かと取り入れた。だが、そういった藩主の見栄と贅沢のために領民たちが重い税で苦しんでいたのなら、まず第一に黄門様が世直しをしなければいけなかったのは、自分の藩、自分自身だったのではなかったのか。

 そういった藩主の気質、考え方は、代々踏襲されていく。斉昭公へ、最後の将軍徳川慶喜へ。たくさんの、本当にたくさんの侍たちが徳川幕府のために、将軍慶喜のために死んでいったにもかかわらず、自分だけは助かって、維新後は華族として平穏に長生きしてしまった徳川慶喜の生き方は、自分の贅沢のためならどんなに領民が苦しもうが知ったこっちゃないという歴代の水戸藩主たちの考え方そのものだ。あれほど多くの人を死なせてしまったというのに、自分は貴族に処せられて、優雅に暮らした徳川慶喜という人を私は好きではないのだけれど、この本を読んだら、「ああ、そういう下地があったのか」と、納得してしまった。

 こんな藩主が納める国に生まれてしまった不幸。人は生まれる場所を選べないのに、この悲惨さは、どういったらいいのだろう。同じ藩主と領民という形であっても、貧しくてももっと平和で穏やかに暮らせていた藩だってあったのだろうに。 

 そんな地にあっても、人は恋をするし、好きな人のために命もかける。いや、そういった悲惨さの中にあるからこそ、いっそう、人に焦がれるのだろうか。

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ぷるーと
ぷるーと さん本が好き!1級(書評数:2922 件)

 ホラー以外は、何でも読みます。みなさんの書評を読むのも楽しみです。
 よろしくお願いします。
 

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